(3)「私の洋服をナイフで切ったりした」
時折鼻をすすりながら証言をする歌織被告。質問を交代した別の弁護士が、証言台に寄っていった。歌織被告は少しだけ弁護士の方を向いたが、再び裁判長が座る正面を向いて証言を続けた。
弁護人「平成18年11月5日、お母さんを立ち合いのために呼んだ。これは何のため?」
歌織被告「彼が離婚に応じてくれそうだったので…」
弁護人「メモがあるので示します」
弁護側が手にしていたメモを歌織被告に見せる。検察官2人が、証言台に寄っていった。
弁護人「これはいつごろ作成したものか?」
歌織被告「11月5日という日付があるが、それ以降に書いた。2〜3日くらい後だと思う」
弁護側は次に、歌織被告が作成したというノートのコピーを見せた。弁護側が証拠として裁判所に提出しているものだ。
弁護人「この手帳はどうして購入したのか?」
歌織被告「11月22日、彼が離婚に応じるようになったことで、そのときは結局、彼は離婚に応じてくれなかったが、気持ち新たに離婚のためにがんばるぞ、と自分自身を励ますために書いた」
弁護人「平成18年の誕生日までに離婚しようと思ったと言っていたが、誕生日までメモを残した?」
歌織被告「自分の誕生日をひとつの目標のように設定していて、その日までをカウントダウンのように一日一日をつけていた」
弁護人「『あと153日で2・27とある』が?」
歌織被告「2・27は、2月27日のこと。あと153日は自分の誕生日まで逆算してカウントダウンした」
弁護人「次に、3枚目を示します」
検察官2人が再び立ち上がり、弁護側が示したノートのコピーを見に行く。歌織被告は前を向いたまま、検察官の方を見ようとはしない。
弁護人「1月の記載があるが、そのころの祐輔さんの暴力はどうだったか?」
歌織被告「平成17年1月だが、私が万引して間もないころで、彼の暴力は一時的になくなっているころだ」
弁護人「次に写真を示します」
女性検察官がゆっくりと立ち上がり、写真を見に行く。少し遅れて男性検察官も続いた。
弁護人「これは誰?」
歌織被告「私が自分で、彼に暴力を受けたときに、手のところに残ったけがを撮った」
弁護人「いつごろの写真か?」
歌織被告「着ている洋服から考えると、平成18年春以降に撮ったと思う」
弁護人「次に、この写真は?」
歌織被告「これも私が自分で彼の暴力の跡が残っているのを撮った」
弁護人「同じ機会? 違う機会?」
歌織被告「別のとき」
弁護人「(次の写真を見せながら)これは誰が撮影したものか?」
歌織被告「私自身が撮った」
弁護人「どこのマンションか?」
歌織被告「代々木(渋谷区富ヶ谷)の自宅マンションの風呂場。私が家から逃げようとしたとき、彼が私の荷物を取り上げ、化粧品をばらまいたところ」
歌織被告の髪の毛には、茶色いシャギーの跡が残っている。その髪を左手でかき上げながら、弁護側から示された写真を見る歌織被告。手を動かすなどして、よどみなく説明をする。
弁護人「この写真は誰が撮影したか?」
歌織被告「撮影したのは私。代々木の自宅マンションの洗面所。私が逃げようとしたとき、荷物を取られ、化粧品が入っているものを持って行けないように、水を入れられてしまったもの」
弁護人「次にこれは写っているのは誰か?」
歌織被告「私自身」
弁護人「どういう状況か?」
歌織被告「彼に顔を殴られたとき」
弁護人「次にこの写真は?」
歌織被告「代々木のマンション」
弁護人「時期は特定できるか?」
歌織被告「よくわらかないが…(手を動かしながら)ここに写っているピンクのコートは平成18年冬に彼に切られてしまったので、その前だと思う」
弁護人「切られたのは何のため?」
歌織被告「彼の暴力があって、そのとき切られた。何のためというか…以前から殴ったりするとき、服で縛ったり、私の洋服を持っている携帯ナイフで切ったりした。何のためかはわからない」
弁護人「写っているのは?」
歌織被告「私の腕で、彼の暴力の跡が…」
祐輔さんから受けたという暴力の跡を写真で残していた歌織被告。しかし、弁護側はここで、まったく違う写真も示した。
弁護人「この写真に写っているのは?」
歌織被告「私と彼です。平成18年夏ごろに、高尾山にドライブに行ったときの写真」
暴力だけではない夫婦生活がかいま見える写真を1枚だけ見せたが、歌織被告の様子は変わらない。弁護側は質問を変えた。
弁護人「祐輔さんから暴力を受けた次の日の朝は、どんな感じ?」
歌織被告「前の晩、暴力があったときは、彼が起きる前に朝食だけ用意して、近くのカフェに逃げていた」
弁護人「祐輔さんはどんな様子か?」
歌織被告「彼はしつこく電話をかけてきた」
弁護人「平成18年の誕生日までに離婚しようと考えていたというが、住む場所は考えていたのか?」
歌織被告「彼に気づかれないように、隠れながら探していた。しかし、きっかけは違うことだったが、彼の暴力が始まり、部屋をめちゃくちゃにされたとき、無料の住宅雑誌が見つかり、家を出て行こうとしていることがわかって、暴力をふるわれたことがあった」
弁護人「それでどうしたのか?」
歌織被告「落ち着いたころを見計らって逃げた。というか、家を出た。でも、しつこく何度も電話をかけてきた。(平成18年)7月上旬ごろだと思う」
弁護側の質問はまだ続く。一時は涙声だった歌織被告はすっかり落ち着いた様子で、少し高めの声で質問に答え続けた。