(1)殺害直後にパン屋へ 親に「ノコギリ代」無心
前回の弁護側の質問に対し、歌織被告は、夫の祐輔さんのDV(配偶者間暴力)に追い詰められるなどして、平成18年12月12日に祐輔さんを殺害した状況までを話している。今回は殺害後の行動や心情に関する質問がメーンとなりそうだ。弁護側の後には検察側が質問を行う予定で、祐輔さんの暴力を事件の核心として描こうとする弁護側に対する『反論』も注目される。
弁護人「殺害後の部屋はどんな状況だった?」
歌織被告「部屋は…部屋はものすごい血だらけの状態だった」
弁護人「どうした?」
歌織被告「怖くて怖くて仕方なくて、朝よく行っていた代々木上原のパン屋さんに行った」
弁護人「どんなことを考えた?」
歌織被告「とにかく血だらけだった。彼の遺体から血が流れ、もっと血だらけになる。どうしたらいいだろうと」
弁護人「それで?」
歌織被告「とりあえず、移動させたいと思った」
弁護人「どこへ?」
歌織被告「遺体のすぐそばにクローゼットがあり、物置代わりに使っていた。そこに移動させようと思った」
弁護人「それで?」
歌織被告「クローゼットは床板が薄く、すき間もあいていた。結局血があふれると思い、何かシートのようなものをひきたいと思った。手に入れたいと思ったが、代々木上原駅周辺はスーパー、コンビニ、本屋しかない。結局植木屋で土を買って、シートの代わりに入れるしかないと考えた」
歌織被告は右手にうすいピンク色のハンカチを持っているが、様子は落ち着いており、使うことはなかった。
弁護人「買った後は?」
歌織被告「自宅に土が届けられるまで…自宅に戻ったが、怖くてリビングに行けなかった。犬のマーリーと2人でカギのかかる洗面所に逃げていた」
弁護人「そのとき、警察に電話した?」
歌織被告「はい」
弁護人「どこに?」
歌織被告「覚えていない」
弁護人「(茨城県の)日立署と水戸署に電話した記録があるが」
歌織被告「自首しようと思ってかけた」
弁護人「自首した?」
歌織被告「できなかった」
弁護人「土が届いてからは?」
歌織被告「クローゼットに入れ、遺体を移動させた」
弁護人「(殺害当日の)12日のこと?」
歌織被告「はい」
弁護人「翌13日は父親と会った?」
歌織被告「『お前の方から絶対離婚すると言うな。あいつから言わせるようにしろ。今までのこと(暴力)を考えれば、慰謝料800万円ぐらいはもらえるのだから』と言っていた」
弁護人「会っている間に電話があった?」
歌織被告「はい。(祐輔さんの会社の)人事部の方や役員の秘書、同僚の○○さん(実名)など。『早く捜索願を出せ』と」
弁護人「帰りは?」
歌織被告「渋谷のドンキホーテに寄り、遺体を運ぶ台車とブルーシートを買った」
この時点では切断を考えていなかったという歌織被告。家に戻って台車で遺体を運び出そうと試みたが、重くて無理と分かった。
弁護人「どうしようと思った?」
歌織被告「遺体を切るしかないと思った」
弁護人「14日に母に電話した?」
歌織被告「ノコギリを購入するため、お金を送ってもらおうと思った」
弁護人「何と?」
歌織被告「『何も聞かずにお金を送って』と」
弁護人「父は?」
歌織被告「『前回も渡したのになぜだとしつこく聞いてきた』」
生々しいやり取りに耐えられず、祐輔さんの親族とみられる年配の女性が、体を支えられ、泣き崩れながら法廷から出て行った。体をほとんど動かさず、淡々としゃべり続ける歌織被告とは対照的だ。
弁護人「何と父に説明した?」
歌織被告「『彼の借金を返さねばいけないから』と言った」
弁護人「父は?」
歌織被告「『何であいつの借金を払うんだ』と怒った」
弁護人「それで?」
歌織被告「とっさに『金を持って家を出た』と伝えた」
弁護人「その後は?」
歌織被告「直後ぐらいに祐輔さんの同僚から電話があった。捜索願について聞かれ、私が警察に行けるはずもないので『出しました』と言ったが、しばらくたって『確認したが出されていない。どういうことか』と電話があった。仕方ないので代々木警察署に行った」
弁護人「ノコギリはいつ買った?」
歌織被告「14日の昼」
弁護人「遺体を切断した?」
歌織被告「はい」
弁護人「そのあとクロスやフローリングを変えた?」
歌織被告「彼の遺体がなくなっても、血のにおいや殺害した光景が強く残っていた」
弁護人「1月10日に祐輔さんの会社にボーナスが出るかを聞いたのは?」
歌織被告「リフォーム代を払わねばいけなかったので」
東京地裁104号法廷。7回目の公判を迎えた三橋歌織被告は、薄いピンク色のセーターに白いパンツ姿で入廷した。いつものように髪の毛を肩の下までまっすぐに下ろしている。午前9時56分、予定より4分早く河本雅也裁判長が開廷を告げると、やや紅潮しているものの、落ち着いた様子で歌織被告が中央の証言台に進む。歌織被告への被告人質問は、前回7日に続き2回目だ。