(10)苛立つ検察「相手によって都合のいい話していないか?」
検察側の質問は、午前中の弁護側の質問で、問題とされた警察官と検察官の取り調べの状況に移った。検察側は取り調べに問題はなく、調書に信用性があるとの立証を図るつもりのようだ。
検察官「午前中、弁護側の質問で、取り調べの際に刑事さんや検事さんから、『マンションが手に入らないから殺した』とか、『男性関係から殺した』と言われたと言うが、あなたの供述調書はそういう内容にはなっていないけれど?」
歌織被告「そうかもしれないが、取り調べでのやり取りでそういうことを言われた」
検察官「だから、供述調書では、マンションや男性関係が理由で殺したということにはなっていないでしょ?」
歌織被告「ここでは確認できないので分からない」
検察官「弁護士から(調書を)見せてもらっていないの?」
歌織被告「見せてもらったが、ここで抽象的なことを言われても分からない」
検察官「上申書もすべて刑事さんの言う通りに書かれたの?」
歌織被告「基本的にはそう」
検察側の質問と歌織被告の回答は噛み合わないことが多かった。質問していた女性検事の口調は幾分いらだった様子だが、歌織被告の態度は平然としていた。ここで検察側は、男性検事が質問に立った。
検察官「祐輔さんから初めて暴力を受けたのは入籍して1週間後の(平成15年)4月上旬?」
歌織被告「はい」
検察官「(17年)6月にシェルターに入ったときは、初めて暴力を受けたのはいつと言ったの?」
歌織被告「覚えていない」
検察官「6月24日にはシェルターの係員に対し、最初の暴力は結婚翌日だと言っているが、覚えている?」
歌織被告「覚えていない」
検察官「その3日後のシェルターでの心理面接には、(最初の暴力が)平成15年9月と書かれているが?」
歌織被告「そこのところは覚えている」
検察官「どうして9月だと話したの?」
歌織被告「本当に殴る、蹴る、首を絞めるという暴行と言うようなひどいものを受けたのは、そのときが初めてだったから」
検察官「弁護側の被告人質問では(15年4月の)最初の暴力で、いきなり顔を殴ってきたと言っているが?」
歌織被告「そうです」
検察官「顔を殴るというのは大したことではないの?」
歌織被告「(15年8月の)引っ越しの翌日の暴行に比べたらということ。翌日の(暴行は)あまりに酷かった」
検察官「なぜ、シェルターでは(最初の暴行について)話をしなかったのか?」
歌織被告「分からない」
検察官「あなた、話す相手によって都合のいい話をしていない?」
歌織被告「分からない」
公判での歌織被告の証言について矛盾点を突こうとする検察側。しかし、歌織被告は「覚えていない」「分からない」などと繰り返し、核心部分については言質を与えない。
検察官「質問を変える。弁護側の被告人質問に対し、16年に新潟の実家に帰ったと言っているが、何月ごろ?」
歌織被告「春ごろ」
検察官「3月、4月、5月ごろ?」
歌織被告「3月以降なのは間違いない」
検察官「祐輔さんと離婚すると決意して帰ったというが間違いない?」
歌織被告「そうです」
検察官「お母さんと離婚後の話をしたというが、具体的には?」
歌織被告「うちの父が持っていた会社の事務所をその当時使っていなかったので、(そこで)私の叔母と一緒に仕事をしたりするのもいいのではないか、と」
検察官「その提案はお母さんから」
歌織被告「そこまで覚えていない」
検察官「お母さんの話はそこで住むという話?」
歌織被告「住む住まないではなく、叔母とお店でもしたらいいのではという話だった」
検察官「具体的にはどんな仕事を?」
歌織被告「帰省したばかりで、そこまでは考えていなかった」
検察官「ほかにはお母さんとどんな話をした?」
歌織被告「新潟にあるそういうところに行ったらいいのではと」
検察官「そういうところとは?」
歌織被告「資格を取得する専門学校とか」
検察官「両親が経済援助をしてくれるということだったの?」
歌織被告「具体的に行くか行かないかも決まっていなかったので…(決まっていない)」
検察官「将来通うとして、あなたに(学費として)出せるお金はあったの?」
歌織被告「その当時はない」