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(9)混乱…「地図を見ろ」「写真を見ろ」「やめて」

弁護人「当時の気持ちは?」

鈴香被告「混乱して、怖くなった」

弁護人「どういう怖さだったのか?」

鈴香被告「何を、どこまでされるか分からない、という怖さがあった」

弁護人「あなたは7月6日に自白しているが、その前の6月30日にも調書を取っている。『真剣に向き合って、彩香ちゃんの事件のことを思いだす努力をする』と書いてあるが、本心か?」

鈴香被告「いいえ。彩香の事件のことは覚えていなかったし、何かしたということを記憶に持っていなかった」

弁護人「じゃあ、なぜ署名した?」

鈴香被告「検事さんが怖かったので」

弁護人「その調書には『豪憲君の事件で心から反省している』とあるが、その部分に同意する意味で署名したということはあるのか?」

鈴香被告「それはあった」

弁護人「検事から豪憲君の遺体の写真を見せられたというが、どういういきさつで見せられることになったのか?」

鈴香被告「検事さんに『思い出すよう努力するという調書を作ったから、思い出さなくちゃいけない。豪憲君も彩香の命も同じなんだぞ。本当に反省しているなら、豪憲君の写真を見ろ』と言われた」

弁護人「写真は見たかったのか?」

鈴香被告「怖くて見れなかった」

弁護人「それでも何で見たのか?」

鈴香被告「反省してないと思われたくなかったので」

弁護人「どんな写真だったのか?」

鈴香被告「遺体にたくさんのアリがたかっていて、アリに食べられたような跡が無数にあった」

このとき、豪憲君の母親は目を閉じ、下を向いた。

弁護人「どう思った?」

鈴香被告「すごくショックで、言葉にならなかった…」

鈴香被告は、わなわなと声を震わせた。

弁護人「○○検事(実名)についてはどう思っていた?」

鈴香被告「もともと、『バカヤロー』と怒鳴られて怖い人だと思っていたが、逆らったら何をされるか分からないと思った」

弁護人「抵抗しづらくなったのか?」

鈴香被告「(抵抗は)できなかった」

弁護人「(それによって)彩香ちゃんの事件を思い出す努力はしたのか?」

鈴香被告「反省していないと思われたら怖いので、思い出す努力をした」

弁護人「(その話をする以前に作られた)7月2日の調書で、『彩香ちゃんに何をしたか分からないが、思い出す努力をしている』とあるが、していたのか?」

鈴香被告「いいえ」

弁護人「じゃあ、なぜこんな調書を作ったのか?」

鈴香被告「怖かった」

弁護人「弁護人のことで、検察官に何か言われなかったか?」

鈴香被告「こういう調書を作ってしまったのを弁護人に言うとしかられるので、『黙っておこうね』と言われた」

弁護人「彩香ちゃんと2人で川に行ったでしょと、刑事からは何日間も追及されていた。7月5、6日の(弁護人との)接見では、朝から泣いていた。6日に調書が作られていたようが、混乱した頭で把握はできたのか?」

鈴香被告「いいえ」

弁護人「7月6日の取り調べで、彩香ちゃんの事件への関与を認めたのか?」

鈴香被告「はい」

弁護人「橋の上のことを思い出したのは、7月6日か?」

鈴香被告「はい」

弁護人「7日の朝に(弁護人と)接見をしたのを覚えているか?」

鈴香被告「泣きながら『先生、思い出ししちゃった、橋から落としちゃった』と話した」

弁護人「調書には『刑事の手を握り、両手をつかんで話した』と書いてあるが、そうか?」

鈴香被告「いいえ。刑事から、机をドンドンと叩きながら『思い出せ、思い出せ』と怒鳴られて…」

弁護人「あなたはどうしたのか?」

鈴香被告「机に向かって横向きになり、耳をふさいで下を向いた」

弁護人「そうしたら?」

鈴香被告「いつの間にか刑事さんが私の前に立っていて、(刑事が)耳から私の手を離し、手首のあたりを上から押さえるようにして、身動きがとれないようにされた」

弁護人「そこで刑事は何と言ったのか?」

鈴香被告「地図を見るか、写真を見るかと言ってきた」

弁護人「写真?」

鈴香被告「航空写真のことだと思う」

弁護人「あなたは何と言ったのか?」

鈴香被告「やめてくれ、と言った」

弁護人「そうしたら?」

鈴香被告「刑事さんが廊下を走って地図を持ってきて、顔の前(約13センチ)に地図を出して、1枚1枚めくっていった。川のあるところをたどっていったら、大沢橋の特徴的なデコボコした形が目に入って、『ああっ』と思ったら…」

弁護人「刑事はその時、何と言っていた?」

鈴香被告「『そのペースだな、今、あっと言っただろ』と言われた」

⇒(10)「殺害調書」の内容訂正できず ペンで自らの手突き刺す