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(11)「そうかなと思って…」調書に署名

弁護人「今さら否定しても無駄だからといわれた?」

鈴香被告「はい」

弁護人は調書について早口で説明的な質問をするようになる。鈴香被告が答えている途中や答える前に、頻繁に質問をはさむようになった。

弁護人「7月17日に豪憲君殺害で起訴されている。彩香ちゃん殺害の自白調書、経緯の調書、彩香ちゃんについて自白に至った調書に署名していくが、検察官の調書に署名したのは?」

鈴香被告「反省してないと思われるのが嫌だった」

弁護人「死体の写真とか?」

鈴香被告「はい」

弁護人「警察の調書にも署名しているが?」

鈴香被告「検察の方で署名、指印している。押し切られるようにして」

弁護人「健忘というか、だんだん思いこむようになった。調書にも署名した」

鈴香被告「……」

弁護人「まだ思いだして時間経っていない」

鈴香被告「混乱している中で…」

弁護人「何が?」

鈴香被告「自分の中で気持ちと記憶が混乱している中での調書だった。どの調書にサインしたか覚えていない」

弁護人「豪憲君の殺害で誘導はあった?」

鈴香被告「あったと思う」

弁護人「どんな感じ?」

鈴香被告「……」

弁護人「例えばといったら何だが、こんな感じじゃないですかというのは」

鈴香被告「こうだろう、こうだろうというのはあった。こうだろうといわれ、そうかなと思って署名したというのはある」

弁護士の質問の一つ一つが長くなり、以後、鈴香被告が『はい』『いいえ』と答える場面が増える。やり取りが意味不明になる場面も。

弁護人「あとちょっと。その後の接見で『(彩香ちゃん事件に)かかわったのならどうして彩香ちゃんを捜したり、ビラを配ったりした』ということを質問したが、どうしてそうしたのか?」

鈴香被告「そう思いこんでいたとしか言いようがない」

弁護人「混乱し、整理しきれなかった?」

鈴香被告「はい」

弁護人「7月8日の調書では弁護士には短い接見時間しかない、殺意の有無しか聞かれなかったとある。検察に聞かれた?」

鈴香被告「いいえ」

弁護人「弁護士からは『殺すつもりで』や『殺意を持って』という調書には署名しないよう言われた?」

鈴香被告「はい」

弁護人「彩香ちゃん(事件)の再々逮捕で、警察官の弁解録取書や勾留質問に対応できたか?」

鈴香被告「少しは…」

弁護人「7月18日の彩香ちゃん(事件)の再々逮捕で警察官の弁解録取書では橋から落ちたとあり、殺害となっていない」

鈴香被告「はい」

弁護人「どうして」

鈴香被告「(小声で)殺害していなかったから…」

弁護士が鈴香被告に本人が書いた上申書を示す。

弁護人「こちらの書面だが、あなたが書いた?」

鈴香被告「はい」

弁護人「内容は?」

鈴香被告「はい」

弁護人「何のため?」

鈴香被告「頭の中に整理するため」

弁護人「2ページ目の下に日付、署名、指印あるが、もともとしていたのか?」

鈴香被告「いいえ」

弁護人「どうして署名指印することに?」

鈴香被告「○○刑事(実名)から検事に見せれば情状になるからといわれ」

裁判長「作成した日は18日?」

弁護人「7月18日とあるが?」

鈴香被告「その日です」

裁判長「取り調べの警察官の前で?」

鈴香被告「はい。『少し時間を下さい』と言うと、紙とペンを渡され、『ボールペンはだめだが』とマジックを渡され私が書いた」

弁護人「『子供に対する危機管理能力が甘かった』とあるが何を言いたかった?」

鈴香被告「橋に連れて行ったのは甘かったということ」

弁護人「落としたことは?」

鈴香被告「それもあります」

弁護人「そのことで甘かった」

鈴香被告「はい」

弁護人「当時の心理状態は?」

鈴香被告「(少し間をおいて)実際知っていることをただ書いたが、○○刑事に『ここはこうじゃないの?』『矢印をつけた方がいい』と言われ、つけた」

弁護人「これもこうじゃないかと?」

鈴香被告「はい」

弁護人「どうして?」

鈴香被告「そう言われればそうかと」

弁護人「出すつもりじゃなかった?」

鈴香被告「はい」

弁護人「『思った』で止めているのは、殺すことを認めていない」

鈴香被告「はい」

裁判長「補足ですが、上申書2枚は書きなさいと言われて? 思いついて?」

鈴香被告「私が思いついてというか、○○検事に前々からちょっと自分の気持ちを整理する時間ほしいと言っていて、刑事さんに頼んで作ってもらった」

裁判長「取り調べのときに紙をもらって?」

鈴香被告「はい」

裁判長「自分の思いで? 矢印は刑事のアドバイスで?」

鈴香被告「はい」

⇒(12)調書の内容「刑事の考え」 調べの状況続く