第34回公判(2012.3.12) 【論告求刑】

 

(1)「犯人は被告以外にない」検察官主張 面白くなさそうな顔の木嶋被告

木嶋被告

 首都圏の連続殺人事件で練炭自殺に見せかけ男性3人を殺害したとして、殺人などの罪に問われた木嶋佳苗被告(37)に対する裁判員裁判の論告求刑公判(大熊一之裁判長)が12日、さいたま地裁で開かれた。

 これまでの公判では3件の殺人事件を中心に審理が進められてきた。

 木嶋被告が問われている3つの殺人事件は

 (1)平成21年8月、埼玉県富士見市の駐車場で駐車中のレンタカーの車内で練炭を燃やし、薬物で眠らせた交際相手の東京都千代田区、会社員、大出嘉之さん=当時(41)=を一酸化炭素(CO)中毒で殺害した。

 (2)21年1月、東京都青梅市のマンション室内で、こんろ6つに入れた練炭を燃やし交際相手の会社員、寺田隆夫さん=当時(53)=を殺害。

 (3)21年5月には、ホームヘルパーとして自宅に出入りしていた、千葉県野田市の無職、安藤建三さん=当時(80)に睡眠導入剤を飲ませて眠らせた上でこんろを使って練炭に火をつけて殺害したというものだ。

 木嶋被告は初公判や被告人質問で「(殺害)していません」と、3件とも否定している。

 一方で、公判では木嶋被告の“異色”の経歴も露わになった。第23回公判などで、弁護人や木嶋被告の口から語られたものは、傍聴人の関心を一気に引いた。

 それによると…。昭和49年11月に北海道で生まれた木嶋被告は高校卒業と同時に上京。愛人契約やデートクラブでお金を稼ぐようになったという。

 企業の役員や会社経営者、学者、医師…。平成6年から13年まで続けたという愛人契約では、月150万円を得ていた。雑貨や服などを買いあさり、エステや整体にもはまった。「貯金したことはなかった」。木嶋被告は、こう言い切った。

 妹との同居が始まり愛人関係には終止符を打ったものの、今度はリサイクルショップで事務手伝いをしていた経営者から、巧みに援助を得るようになる。

 経営者の息子との結婚をちらつかせ、現金要求をエスカレートさせた。5年間で得たのは、総額7400万円とも、1億円を越えていたともされる。

 そんな木嶋被告が犯行に及んだ背景は、どこにあったのか。検察側が契機に掲げるのは、この経営者の死亡だ。パトロンを失った木嶋被告は、婚活サイトを利用するようになる。

 検察側が描く筋書きはこうだ。婚活サイトを利用して、男性を物色。ときには肉体関係をちらつかせ、男性の意思をコントロール。大学院や専門学校の学費などの名目で多額の現金を要求し詐取を繰り返していた。そして男性側に詐欺が発覚すると、練炭自殺にみせかけて躊躇(ちゅうちょ)なく殺害したという構図だ。

 検察側は、婚活サイトでの男性らと、赤裸々なメールのやりとりを紹介するなどし、犯行を立証してきた。

 一方の弁護側は徹底抗戦の構えをみせてきた。詐欺の一部は認めたものの、婚活サイトを利用したのはあくまでも結婚相手を探していたためと主張。相次いで男性3人が死亡したのは、自殺などによるもので、木嶋被告とは無関係だと否認してきた。

 いよいよ、注目の裁判が幕を開ける。

裁判長「本日の審理を始めます」

 弁護側の横の席に着席する木嶋被告の装いは、白のシャツに黒のカーディガン姿。

検察官「それでは、検察官の意見を述べます」

 大詰めを迎えた裁判だが、木嶋被告の“異色”の経歴に加え、別の側面からも注目を集めた。木嶋被告が問われた3つの殺人事件や詐欺、詐欺未遂など10件に及ぶ事件は、事件ごとに別々の裁判員が担当する区分審理も認められていた。

 だが、今回は一括審理が採られた。いずれの被害者も婚活サイトを利用して知り合うなど共通点が多いことなどからだ。

 一括審理のため、裁判員の拘束は長期に及び、予備日も含むと公判は38回。100日裁判と呼ばれた。加えて、いずれの事件も物証が乏しい上、死刑求刑もあり得るとされ、裁判員に肉体的、精神的に重い負担となっている。

検察官「裁判員の方におかれましては、2カ月に及ぶ審理に、ご負担をおかけしました」

 検察官は、ねぎらいの言葉をかけた後、審理についての説明に入った。

 論告でも、3つの殺人事件を個別に論じていくという。

 いずれも一酸化炭素中毒で死亡、現場には練炭とコンロが残され、木嶋被告が準備した…。検察官はこう示した上で、事件の総論を述べた。

検察官「(木嶋被告の)自白もなけば、残念ながら一部始終を目撃した人もいない。しかし、すべての件の犯人は被告人しかあり得ない」

 検察官は断言。一方の木嶋被告は、面白くなさそうに手元の資料に目をやっていた。

⇒(2)着火剤の数に睡眠薬の種類…木嶋被告以外の犯人「考え難い」