第6回公判(2010.11.1)
(3)「こんなのやだ」「納得できない」…判決後、遺族は法廷で泣き叫んだ
東京・秋葉原の耳かき店店員、江尻美保さん=当時(21)=ら2人を殺害したとして、殺人などの罪に問われ、無期懲役を言い渡された元会社員、林貢二被告(42)の判決理由の読み上げが続く。
林被告は証言台の前のいすに座り、うつむいたまま若園敦雄裁判長の判決文の読み上げを聞いている。裁判員らは険しい表情で林被告を見つめている。
判決は犯行の経緯についての説明が続く。江尻さんの祖母、鈴木芳江さん=同(78)=の殺害について、若園裁判長は「(鈴木さんに)遭遇するという想定外の出来事で、激しく動揺した結果」と計画性を否定した。
また、若園裁判長は鈴木さんの殺害後、江尻さんの母親や兄に対して危害を加えていないことを挙げ、鈴木さん殺害については、「江尻さん殺害計画に伴う必然的な犯行」とする検察側の主張を退けた。
続けて、若園裁判長は、林被告の犯行後の反省態度について読み上げる。
裁判長「被告人は事件を起こしたことを後悔し、被告人なりに反省の態度を示している」
「もっとも、被告人が事実と向き合い、本当の意味で反省を深めているとは認められない」
公判で林被告は「(江尻さんへの)恋愛感情はなかった」などと供述。遺族側はこうした供述に対し、「反省がない」と厳しく非難していた。
裁判長「被告人は江尻さんへの思いを募らせ、会えないことを悩み、強い殺意を抱くほど強い愛情を有することは明らかである」
「被告人は、(江尻さんに)強い愛情を持っていたから、犯行を引き起こしたことを直視し、(江尻さんの)気持ちを誤解し、一方的に感情を募らせ犯行に至ったことへの反省を深めるべきである」
「しかし、被告人は『恋愛感情』という言葉の定義にこだわり、『恋愛感情は持っていなかった』と述べるに留まっている。そのようなことにこだわるのでは、事件を真剣に振り返り、反省していることにはならない」
さらに、若園裁判長は林被告が遺族にあてた手紙について「誠意を伝えようとしているが、相手にどう伝わるかの配慮が欠けている」と厳しく非難。「相手の立場にたって物事を見ようとしない被告の人格に、犯行の原因がある」と指摘した。
裁判長「被告人の言動には許し難いものがある。遺族が言動に怒りを覚えるのは当然である」
若園裁判長は険しい表情で読み上げを続ける。林被告は身動きせず、うつむいたまま読み上げに聞き入っている。
裁判長「しかし、被告人の言葉や言動は、人格の未熟さ、プライドの高さに起因するものである。江尻美保さんの名誉を傷つけたり、遺族を傷つけようとする意図までは認められない」
さらに、若園裁判長は林被告が20年以上勤続した会社でトラブルがなく、前科もないことを挙げて、死刑を回避する要素の1つと指摘。無期懲役とした判決理由のまとめに入った。
裁判長「死刑は人の生命を奪う究極の刑罰である」
「本件は、未熟な人格の被告人が、江尻美保さんの気持ちを理解できずに一方的に思いを募らせ、抑鬱(よくうつ)状態になり、思い悩んで起こした事件である」
「鈴木芳江さんの殺害は極めて残虐で、芳江さんに落ち度はないが、計画性のない偶発的な犯行である」
傍聴席からすすり泣きが聞こえる。遺族とみられる女性がハンカチを口に当てている。
裁判長「2人を殺害したことを被告人なりに反省し、法廷で遺族の声を直接聞いて、態度にやや変化がみられる」
「被告人に対しては、裁判を契機に、江尻美保さん、鈴木芳江さんの無念さや遺族の思いを真剣に受け止め、人生の最後の瞬間まで、なぜ事件を起こしたか、自分の考え方のどこに問題があったのか、苦しみながら考え抜いて、内省を深めることを期待すべきという結論に至りました」
「よって、主文の通り、無期懲役に処することとしました」
裁判員らは険しい表情で林被告を見つめている。
裁判長「以上が判決です。もう一度立ってください」
若園裁判長にうながされ、林被告がゆっくりといすから立ち上がる。
裁判長「聞いていて分かりましたか」
若園裁判長は14日以内なら控訴できることを林被告に説明。「これで言い渡しを終わります」と閉廷を告げた。林被告は若園裁判長に向かって一礼した。
このとき、傍聴席の後方にいた遺族とみられる女性が泣き叫んだ。
女性「こんなのやだー、やだもう、納得できない、納得できない!」
裁判所職員が「傍聴人は退廷してください」と強い口調で告げる。女性は「もうだめ、絶対だめ」と泣き崩れながら出口に向かった。林被告は傍聴席に礼をすることなく、退廷した。