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第6回公判(2010.11.1)

 

(1)「無期懲役」…その瞬間、被告は微動だにせず 検察官は天を仰いだ

林被告

 東京都港区で昨年8月、耳かき店店員、江尻美保さん=当時(21)=と祖母の無職、鈴木芳江さん=同(78)=が殺害された事件で、殺人罪などに問われた元会社員、林貢二被告(42)の裁判員裁判の判決公判が1日、東京地裁(若園敦雄裁判長)で始まった。検察側は昨年5月に始まった裁判員裁判で初めてとなる死刑を求刑しており、裁判員6人が初めて極刑という重い選択をするのか否か注目される。

 10月19日の初公判から5日間行われた公判で、林被告は起訴事実を認め、責任能力についても争っておらず、量刑の判断材料は情状面に絞られている。

 検察側は江尻さんに一方的に恋愛感情を抱いた林被告がストーカー行為の末に殺意を抱いたと主張。被害者2人には何の落ち度もなかったことに加え、犯行態様はハンマーで殴り、ナイフでメッタ刺しにするという残虐なものだったと指摘した。

 求刑では昭和58年に最高裁判決が死刑適用基準として示した「永山基準」9項目を引用。「動機は身勝手で犯行態様は執拗(しつよう)かつ残虐。結果は重大で真摯(しんし)な反省の態度はなく、極刑をもって望むほかない」と結論づけた。

 一方、弁護側は江尻さんに説明なく来店を拒否されて絶望感を抱くようになり、犯行につながったと主張。鈴木さん殺害時は「パニック状態だった」として死刑回避を求めた。

 証人として出廷した精神鑑定医も「行動制御能力と善悪の判断能力が低下していた」と弁護側の意見を補強した。林被告本人は公判で江尻さんへの恋愛感情は否定。意見陳述では「命で償うしかないと思うが、批判を浴びて生きて自分がしたことに向き合うしかないという思いもある」と話し、深々と頭を下げて謝罪した。

 女性4人、男性2人の裁判員は、死刑選択の可能性があるためか、初公判から緊張感を漂わせ、時折メモを取るなど、真剣な表情で審理に参加してきた。被告人質問では、女性裁判員が、林被告が主張する江尻さんとの信頼関係についてただしたほか、男性裁判員も林被告が首を狙って刺したことなどについて質問。別の女性裁判員は「血やナイフの感触を今も思いだすことはありますか」と声を震わせながら問いかけた。

 また遺族が愛する家族を殺害された悲しみや憤りを法廷で訴え、死刑を強く求める姿に、涙を抑えきれない裁判員も複数いた。

 今回の事件について検察幹部は「誰が見ても死刑というわけではない」としていて、死刑と無期懲役の境界上にあるケースという認識を示している。プロの目から見ても、難しい選択となった今回の裁判員裁判。制度導入の目的となった「民意」によって、どう判断されるのだろうか。

 非公開の評議は、求刑翌日の26日以降、4日連続で行われ、この日の午前にも最終の評議が行われたという。評議で裁判官と裁判員は、法廷に出された証拠を検討。林被告の殺意の強さや反省の度合いなどを考慮し、過去の死刑の判例も参考にしながら、極刑か否かを決めたとみられる。

 起訴状によると、林被告は昨年8月3日午前8時50分ごろ、港区西新橋の江尻さん方に侵入し、1階にいた鈴木さんの頭をハンマーで殴り、首を果物ナイフで刺すなどして殺害。2階にいた江尻さんの首を別のナイフで刺し、約1カ月後に死亡させたとされる。

 法廷は東京地裁最大の広さを誇る104号。午後3時23分、正面に若園裁判長、向かって右手には検察官、左手には弁護人が着席し、開廷を待っている。

 午後3時26分、傍聴人の入廷などが終わり、若園裁判長に促され、向かって左手の扉から林被告が法廷に姿を現した。これまでの公判と同様、黒いスーツに白いワイシャツ、紺色のネクタイ姿。暗く硬い表情で、傍聴席に視線を向けることなく、弁護人席の横に座った。女性4人、男性2人の裁判員も裁判官席の真後ろの扉から入廷してきたところで、裁判所職員が「起立してください」と発声し、法廷内の全員が一礼した。午後3時28分、若園裁判長が声を上げた。

裁判長「はい。それでは開廷いたします。それでは被告人は前に来てください」

 林被告は無言で立ち上がり、証言台の前にゆっくり歩み出た。手を前に組み、緊張した様子だ。間を置かずに若園裁判長が続ける。

裁判長「はい。林貢二被告人ですね。それでは、あなたに対する住居侵入、殺人、銃砲刀剣類所持等取締法違反事件の判決を言い渡します」

 林被告はやはり無言で、小さくうなづく。

 静まりかえった法廷内に緊張が走る。林被告は若園裁判長をまっすぐ見つめたままだ。

裁判長「まず、結論から言います。主文。被告人を無期懲役に処する。押収してあるハンマー1本、果物ナイフ1本及びペティナイフ1本をいずれも没収する」

 裁判員たちの結論は、「極刑回避」−。若園裁判長の主文読み上げが終了すると同時に傍聴席の報道陣は一斉に立ち上がり、速報を伝えるため慌ただしく法廷から飛び出していった。

 林被告は若園裁判長を真っすぐ見据えているため、真後ろの傍聴席からは表情をうかがい知ることはできないが、主文言い渡しの瞬間、林被告は微動だにしなかった。

 裁判員たちは険しい表情で、林被告に視線を集中させている。一方、男性検察官の一人は天を仰いだ。

裁判長「結論を繰り返します。被告人を無期懲役に処する…」

 若園裁判長は、間を置かずに続ける。

「続いて理由です」

 「死刑回避」の結論に、傍聴席が沈黙する中、判決理由の読み上げが始まった。

⇒(2)元気かなぁピヨ吉…「極刑に値するほど悪質と言えず」が結論