第3回公判(2010.10.21)
(8)食事の約束交わすも…被告の捨てぜりふに被害者「もう無理」
東京・秋葉原の耳かき店店員、江尻美保さん=当時(21)=ら2人を殺害したとして殺人などの罪に問われた林貢二被告(42)の第3回公判は、約1時間15分の休廷を挟み、審理が再開された。午前に引き続き、弁護側の被告人質問が行われる予定だ。
背を曲げ、おどおどした様子で入廷する林被告。席についてからは、男性弁護人と打ち合わせする。
若園敦雄裁判長と裁判員が入廷。林被告が証言台に移り、男性弁護人が質問を始める。江尻さんの誕生日だった平成20年7月15日、林被告は秋葉原駅で江尻さんと会うが、江尻さんは待ち伏せされたと思ったため、林被告はいったん、店に通うのをやめる。弁護人はその時の状況について質問を始めた。
店に通うのをやめた林被告だったが、7月20日付の江尻さんのブログで「元気かなピヨ吉」と林被告を念頭に置いた書き込みをする。これをきっかけに林被告は再び店に通い始めたとされる。
林被告は土日に加え、金曜も店に行き、江尻さんが掛け持ちしていた新宿東口店では午後11時から午前5時まで店にいることもあったと証言。弁護人は再びクリスマスプレゼントの話に言及し、林被告は江尻さんに頼まれ、任天堂のゲーム機「Wii」(価格2万5千円)をプレゼントしたことを話した。さらに年末年始も江尻さんに来店を頼まれ、9日間連続で店を訪れたことを話した。
弁護人「林さんが美保さんに買ってほしいと言われたものとは違うものを買っていったことはありますか」
被告「はい」
弁護人「そのときの美保さんのコメントは?」
被告「『これは違う』と言われました」
うつむき、肩を落として話す林被告。裁判員はメモを取りながら林被告の一挙手一投足に注目している。
弁護人「プレゼントをあげたり、空いている時間に店に行っていても、持っていったものが違うと言われたり、美保さんが最初は敬語だったのが友達みたいな話し方になっていったりしたのはどう思いましたか」
被告「特に腹は立ちませんでした。本音を言うことはそれだけ打ち解けている、気兼ねなく話している証拠だと思いました」
弁護人「喜ばしいと思いましたか」
被告「はい」
別の男性弁護人の質問の前に、若園裁判長がマイクをもっと近づけて話すよう林被告に促す。
男性弁護人は店への出入り禁止になるきっかけとなった21年4月の出来事について質問を始める。
弁護人「店の外で食事に誘ったことはありますか」
被告「あります。21年4月4日です」
弁護人「それまで誘わなかったのはなぜですか」
被告「そういう気持ちもなかったですし、店のルールでだめだと分かっていましたから」
弁護人「店で会えればいいと」
被告「はい」
弁護人「なぜ行くことになったのですか」
被告「(江尻さんに)『1年2カ月経って中で会っているけど外の姿も見てみたいね』と言われたので」
弁護人「美保さんが最初に言ったのですか」
被告「はい。翌日に終わったらご飯を食べに行こうかという約束をしました」
林被告は4月5日、江尻さんの退店後に食事をする約束をする。ほかの客に見られないために、江尻さんが秋葉原店から少し離れた神田のファミリーレストランを選んだと話す。
林被告は4月4日午後4時から午後10時まで店におり、翌5日の午後3時に予約を入れてから退店。5日は予定通り午後3時に店を訪れる。
弁護人「店での美保さんの様子はどうでしたか」
被告「風邪をひいて熱があるとぐったりした様子でした」
弁護人「話はできましたか」
被告「ほとんどできませんでした」
2人はほとんど無言で過ごした。林被告は江尻さんに「体調が悪いなら帰って寝た方がいい」と言うが、江尻さんは「店の売り上げのために帰らない」と答え、何度かそのやり取りを繰り返したという。
食事の約束をしていたため、林被告は店長やほかの客に聞こえないよう携帯電話のメモ機能を使い「今日、そんな体でご飯いけるの?」と書いたメモを江尻さんに見せたという。江尻さんは「具合が悪いからやめましょう」と書いた携帯電話のメモを林被告に見せた。
弁護人「そのときはどう思いましたか」
被告「困りましたね。会話もできないので、何時間も黙っているのは。そこはがんばるところじゃないと思いました」
弁護人「いらだちましたか」
被告「はい」
弁護人「足で壁をたたいたり?」
被告「自分のもものあたりをたたきました」
林被告は午後10時に店を出る。
弁護人「帰るときに美保さんに何か言いましたか」
被告「『もういいよ。帰るよ』と捨てぜりふのように言いました」
林被告は次の予約を入れずに帰った。2日後の7日に江尻さんにメールを送る。
弁護人「どんなメールを打ちましたか」
被告「5日の出来事について、捨てぜりふのようなことを言って悪かったと。また次行くからと」
弁護人「返事はありましたか」
被告「はい。翌朝に」
弁護人「何とありましたか」
被告「『もう無理です』と」
弁護人「それでどうしましたか」
被告「同じようなメールをもう一度打ちました」
弁護人「美保さんは何と」
被告「『もう無理』と。『もう店に来ないと言ったじゃないですか』と」
弁護人「店に来ないでくださいと言われましたか」
被告「いいえ」
弁護人「でもそういう趣旨だと?」
被告「はい」
弁護人「どう思いましたか」
被告「意外でした」
弁護人「美保さんが怒っていると思いましたか」
被告「はい」
弁護人「心当たりはありましたか」
被告「最後に言ったことしかないです。4月5日に体を気遣って早く帰った方がいいと言ったのに、違う意味に取ったのかもしれないのと、最後に捨てぜりふを言ったことです」
弁護人「ほかの原因はありましたか」
被告「一応考えましたが、思い当たるものがなかったです」
弁護人「食事に誘ったことについては?」
被告「それはなかったです」
弁護人「林さんが美保さんに『付き合ってくれないならもう来ない』と言ったことはありますか」
被告「付き合ってくれと言ったことはないし、そもそもそういう会話はしていません」