第3回公判(2010.10.21)
(6)「体に触ってくるのが嫌」「出入り禁止にした」他の客の愚痴を被告に漏らす被害者
東京都港区で昨年8月、耳かき店店員、江尻美保さん=当時(21)=と祖母の鈴木芳江さん=同(78)=を殺害したとして、殺人などの罪に問われている元会社員、林貢二被告(42)の裁判員裁判で、弁護人は林被告が一方的に店へ頻繁に通い詰めたのではないことを立証しようと、質問を続けている。
弁護人「平成20年の年末から年始の状況について聞いていきます。美保さんの手帳には12月27日から1月4日まで吉川(林被告が店で名乗っていた偽名)さんと記入されていますが、連続で行っていたのですね」
被告「記憶に相違ありません」
弁護人「連続で行くことを予定していた?」
被告「予定を立てていたわけではありません」
弁護人「行かない日をどれ(何日)くらいにしようと」
被告「行かない日を作るというより、1人暮らしで普段できない掃除など、2、3日は家のことをやろうと。元旦は普段、実家に帰っているので、実家に帰ろうと」
弁護人「その話を美保さんにしましたか」
被告「はい」
弁護人「美保さんの反応はどうでしたか」
被告「『どこの掃除をするの?1日もかからないでしょう?』と。『短くてもいいから、できるだけ来てほしい』と言われました」
弁護人「元日も店に行っていますが、これはどうして?」
被告「『私は(お店に)出ているから、12時に開店して(年の)一番最初に来てほしい』と言われました。実家に帰るから無理だ、と言ったが、結局2時間行きました」
弁護人は続けて、美保さんが出勤予定を調整し、林被告専用の時間を空けていたことについて質問する。右から2番目の女性裁判員はペンを持った右手を口に当て、真剣な表情で林被告を見つめる。
弁護人「美保さんはブログで出勤予定をアップしていましたね」
被告「はい」
弁護人「夜は何時ごろまで出勤していましたか」
被告「夜の10時です」
弁護人「(林被告は)21年2月ごろ、何時ごろまで店を使っていましたか?」
被告「早くて(午後)3、4時ごろから、10時までです」
弁護人「閉店の10時まで?」
被告「そうです」
弁護人「ブログの勤務予定時間は、途中で変わりましたか」
被告「はい」
弁護人「いつごろですか」
被告「21年3月です」
弁護人「どう変わりましたか」
被告「終わりが17時までになりました。土日だけです」
弁護人「自分で気付きましたか」
被告「店で言われた。美保さんに言われました」
弁護人「なんと言われたんですか」
被告「『土日の遅い時間、17時以降は、公には帰っていることにする』と」
弁護人「それを聞いて、どう思いましたか」
被告「そこまでするということは、(その時間に)私が行かない、という選択肢はない。もちろんうれしいことですし、用事があっても、ちゃんと行かなければいけない、いけないというか、責任感のようなものを感じました」
美保さんとの距離が近づいていく経緯を、淡々と振り返る林被告。質問は店内での過ごし方に移る。
弁護人「耳かきは毎回していましたか」
被告「最初の何回か。後は2カ月に1回ほどでした」
弁護人「いつごろから耳かきをしなくなりましたか」
被告「あまり覚えていない。20年の春ぐらいだと思います」
弁護人「店にはひざまくらのサービスもありますが、そちらはどうでしたか」
被告「最初の何回かだけ。後はしていません」
弁護人「なぜしなくなったのですか」
被告「ヘルニアで腰やひざが痛く、本当はひざまくらが辛い、という話を聞いたので。じゃあひざまくらはしなくていい、と私が言いました。それ以来していません」
林被告は2カ月に一度の耳かきでも手のひら大のマット、『正座イス』に頭を乗せる態勢で行ったとし、美保さんへのいたわりを強調する。弁護人は店内での美保さんとの会話の内容について詳しく質問していく。
弁護人「美保さんは(林被告に)どんな話をしましたか」
被告「色々です。家族の話が多かったです。友達、前に勤めていた和菓子店、休日の買い物などの話もありました」
弁護人「家族は何人と話していましたか」
被告「5人ですか…。5人です」
弁護人「一緒に住んでいる人ですね」
被告「はい。おばあちゃん、父、母、お兄さんと聞いていました」
弁護人「どうして家の話が出たんですか」
被告「きっかけは覚えていませんが、私の会社の本社が(東京都港区の)新橋だと答えたときに、美保さんの家も新橋だ、と。帰りの道順も話していました。SL広場側に降りて、ヤマダ電機の脇を通り、日比谷通りを少し行って…と」
弁護人「それは21年の年明け以降ですか」
被告「もっと早く。(20年)夏か秋ごろです」
弁護人「どの家なのか、どうして分かりましたか」
被告「家の前で家族全員で映っている写真を、ケータイで見せられたので」
弁護人「はっきり分かるのですか」
被告「結構はっきり映っていました」
お互いの生活の愚痴を言い合うなど、親密な会話を交わしていた様子を示す質問が続く。
弁護人「美保さんは他の客の愚痴や苦情を話したことがありますか」
被告「あります」
弁護人「どんな内容ですか」
被告「『体に触ってくるのが嫌だ。出入り禁止にした』と言っていました」
弁護人「出入り禁止は店側が言う、ということでしたか?誰が言うと?」
被告「知らないですが、直接『もう来ないでと言った』と聞きました」
弁護人「同僚の悪口はありましたか」
被告「言っていました」
弁護人「どんな内容ですか」
被告「□□さん(法廷では実名)という名前の人。『仲良くしているけど、あの人は苦手だ』と言っていました」
弁護人「林さんが美保さんに愚痴を言ったことは」
被告「ありました。会社のことなど」
か細い声ではあるものの、美保さんと過ごした状況をはっきりと答えていく林被告。まっすぐに前を向き、質問に答え続けている。