第3回公判(2010.10.21)

 

(3)「ピヨ吉は私じゃない」被告が語るあだ名の意味は…

犯行現場

 東京都港区で昨年8月、耳かき店店員の江尻美保さん=当時(21)=と祖母の鈴木芳江さん=同(78)=を殺害したとして、殺人などの罪に問われている元会社員、林貢二被告(42)の裁判員裁判は、弁護側による被告人質問が続いている。

 林被告は江尻さんが勤務していた東京・秋葉原の××耳かき店(法廷では実名)に毎週末通い、1日に7、8時間ほど江尻さんを指名していた。男性弁護人は店内でやり取りされた江尻さんと林被告の会話の内容について尋ねている。

被告「美保さんに(自分が)長時間いて嫌に感じないか聞きましたが、美保さんは『全然嫌じゃない』と言っていました」

弁護人「いつごろ確認しましたか」

被告「平成20年夏ごろです」

弁護人「1回だけですか」

被告「何回か聞きました」

弁護人「最後はいつですか」

 首をやや傾ける林被告。記憶をたどっているようだ。

被告「(20年の)年末か、年明けです」

弁護人「待ち伏せだと疑われたときの話を聞かせてください」

 林被告は江尻さんの誕生日だった20年7月15日、秋葉原駅で出勤する江尻さんを待ち伏せしていたとされている。

弁護人「7月15日は美保さんの誕生日でしたね?」

被告「はい」

弁護人「どうして誕生日を知ったのですか」

被告「(江尻さんから)直接聞きました」

弁護人「平成20年7月15日に行ったときの話をしてください」

被告「(最初は)7月15日か、その次の休みの日のどららかに行こうと思っていました。美保さんに『どうしても当日がいい』と言われ、私は「当日休めるか約束できないから、休めないときは次の土日に行く』と言いました」

 林被告は最終的に有給休暇を取り、誕生日当日に秋葉原に向かった。

弁護人「何か持って行きましたか」

被告「ゼリーでした。東京駅で買いました」

弁護人「ゼリーを買う時間を考え、早めに(家を)出ましたか」

被告「はい」

 林被告は店の開店は午後12時だったが、その約30〜40分前には秋葉原駅についていたと説明した。

弁護人「早く駅についてどうしましたか」

被告「どこかで時間をつぶそうと思い、駅ホームから階段を下りて、コンコースに行きました」

弁護人「どうなりましたか」

被告「美保さんがホームの階段を下りてきて、(コンコースで)バッタリ会いました。美保さんに『早いですね』と言われ、『早いかな』と答えました」

弁護人「待ち伏せをしたのですか」

被告「違います」

 はっきり否定する林被告。林被告のストーカー行為の一つとされる出来事でもあり、裁判員たちも真剣な表情で聞いている。

被告「駅には階段が3つあって、その階段から美保さんが下りることを知りませんでした」

 江尻さんは、先に駅を出て店に向かった。林被告もその後、店に向かった。

弁護人「店に行ってどうしましたか」

被告「開店前でしたが、店の扉が若干開いていました。中から声が聞こえてきました」

弁護人「どんな話でしたか」

被告「美保さんと(店長の)Xさん(法廷では実名)と、もう1人の女性と話していました。私が美保さんを待ち伏せしていたことになっていて、『嫌な目にあった』と聞こえてきました」

弁護人「どう思いましたか」

被告「びっくりしました。待ち伏せしたわけじゃないです。誤解されているのがイヤだったので、そのまま帰りました」

弁護人「土日はいつも予約をしていましたが、次の土日は行きましたか」

被告「行っていません。誤解され、行きたくありませんでしたから」

弁護人「その後、また行っていますが、きっかけは何でしたか」

被告「行きたくはなかったですが、気になって(江尻さんの)ブログを見ていました。その中に私にあてたと分かるメッセージがありました」

 江尻さんは7月20日付のブログで「突然だけど元気かなぁピヨ吉」と書いていた。これまでの法廷では同僚の証言から、「ピヨ吉」は江尻さんが林被告に頼まれてつけたあだ名とされている。弁護人はブログを読んだときのことを尋ねる。

被告「ピヨ吉は私のあだ名とされていますが、そうではありません」

 林被告は弱々しいが、はっきりとした口調で言い切り、供述を続ける。

被告「(店で)美保さんの自宅の部屋にあるヒヨコのぬいぐるみを撮影した写真を見せられ、『これに名前をつけたいから考えて』と言われました。一緒に考えて、最後は美保さんが自分で決めたのですが、ピヨ吉になりました。これは私しか知り得ないことなので。誕生日の日に予約したのに行かなかったから(美保さんが)気にしているということもあると感じました」

弁護人「それを見て、どう思いましたか」

被告「(誕生日に美保さんがXさんらと『待ち伏せをされた』と話していると聞いたとき)嫌がられていると感じたが、嫌がっている人にメッセージを送らないかもと考え、(美保さんに対して)『誤解だ』と言えば分かってくれるかもしれないと思いました」

 林被告はブログが掲載された日の翌日、店に予約を入れて来店する。弁護人はその際の様子を尋ねる。

弁護人「美保さんとはどんな話をしましたか」

被告「ブログの話をしました。私にあてられたものだと感じたと話したら、美保さんは『その通り』だと(言いました)」

弁護人「ほかには」

被告「美保さんに『この間(誕生日に予約を入れたのに来なかったが)どうしたの?』と言われたので、今(法廷で)説明したいきさつを話しました。私が『待ち伏せだと思ったの』と聞いたら『思った』と。美保さんは以前にそういうこと(待ち伏せ)をされたことがあり、(今回も)そのように思ったそうです。『今の話を聞いて分かった。そうじゃなかった』と言っていました」

 林被告と弁護人のやり取りが続く。右から3番目の女性裁判員はうつむきながら、林被告の供述に耳を傾けていた。

⇒(4)「夜は寝たかったが、何度も誘われて…」被害者の“積極営業”を強調する被告