初公判(2010.10.19)

 

(5)「冷蔵庫や壁にも血痕」「首の刺し傷」… 生々しい現場写真に伏し目がちの裁判員

林被告

 耳かき店店員の江尻美保さん=当時(21)=へのストーカー行為の末、江尻さんら2人を殺害したとして、殺人などの罪に問われた元会社員、林貢二被告(42)の裁判員裁判初公判の午後の審理が始まった。

 午後1時17分、林被告はうつむき気味に入廷し、弁護人の右横の席に座った。続けて6人の裁判員が緊張した表情で入廷した。若園敦雄裁判長が審理の再開を告げた。

裁判長「開廷します」

 若園裁判長は検察官に証拠調べを始めるよう促した。ここで男性検察官が意見を述べた。

検察官「弁護人が最後に配布したレジュメ(資料)に、冒頭陳述で触れられていない部分が含まれています」

 若園裁判長は弁護人に質問する。弁護人は被告人質問で明らかにしたい内容だと説明して、検察側もこれに同意した。

 検察側の証拠調べが始まる。事務官によって裁判員や弁護人らに資料が配布された。

検察官「お手元に証拠一覧表を配布しました。時間は3時間かかる見込みです。2回の休憩を入れていただきたいと思います」

「1回目の休憩までは、事件直後の現場の写真が表示されます。廷内の大型モニターには表示せず、小型モニターのみに表示します」

 傍聴人には見えないように配慮したようだ。右から2番目の女性裁判員は資料をパラパラとめくり、顔を少しこわばらせた。検察官はまず、現場周辺の状況説明を始めた。地図や写真などが手元のモニターに表示されているようだが、傍聴席から状況は見えない。

検察官「現場となった建物の外観の写真です」

 左端とその隣の女性裁判員は、2人で同じモニターを見つめている。検察官は淡々と証拠の説明を続ける。

検察官「これが建物の出入り口です。玄関の外観の写真です…」

「続いて、建物の中の写真と見取り図を見ていきます。1階の見取り図です」

 左から3番目の男性裁判員はモニターと検察官を交互に見ている。

検察官「室内の写真を表示していきます。玄関から入ったところの写真です。床面に血痕、40センチ大の範囲でついていると(資料に)記載されています」

 右端の男性裁判員は左手に口をあて、少々驚いた様子。検察官は現場の見取り図と写真を交互に示しながら、室内の様子を説明していく。

検察官「8畳和室の写真です。西南西の畳に血液のようなものがたまっています。矢印は(江尻さんの祖母の鈴木)芳江さんが倒れていた位置です。和室で撮影した写真です」

 右から2番目の女性裁判員はモニターから少し体を遠ざけるように、険しい表情でモニターを見つめている。

検察官「血液のようなものがたまっているのが映っています。黒いひもは、被害者の芳江さんが倒れていた位置です。冷蔵庫や壁にも血痕がついています。続いて、芳江さんの写真を表示します」

 左端の女性裁判員はモニターを横目で見た。右から2番目の女性裁判員はゆっくりとまばたきし、眉間(みけん)にしわをよせた。

検察官「カラー写真は評議室でごらんになれます。白黒写真で傷の写真を示します。首に複数、穴が開いていて、果物ナイフが刺さった様子が映っています」

 遺体や傷の写真は裁判員に配慮したのか、白黒加工を使用しているようだ。左端の2人の女性裁判員は微動だにしない。左から3番目の男性裁判員は口を開けたままモニターを見つめている。

検察官「2階の説明をしていきます。見取り図です」

 続けて、検察官は江尻さんが殺害された2階の説明に移った。右端の男性裁判員は眼鏡の位置を直し、何かを考えているようだ。

検察官「廊下に血痕が付着しています。廊下には血痕が付着したワイシャツが置かれています。廊下の標識(2)は美保さんが倒れていた場所です。廊下の矢印の部分にはペティナイフが遺留されている様子が示してあります」

「被害者の部屋の写真です。入り口から室内を撮影したものです。血痕がしみこんだものを表示していきます。部屋のカーペットに多くの血痕がしみこんでいます。床の写真です…」

 右から3番目の女性裁判員はモニターをしっかりと見つめている。検察官は江尻さんの部屋にあったショルダーバッグやハンマーの説明をし、江尻さんが倒れていた現場の説明に入った。

検察官「標識は江尻さんが倒れていた場所です。続けて江尻さんの写真を表示します。(証拠として)提出された写真はカラーですが、ここでは白黒で表示します。それでは表示します」

 左端の女性裁判員は不安そうな表情で、下を向いた。右から3番目の男性裁判員は唇をかんだ。

 続けて、検察官は鈴木さんの戸籍を説明した後、鈴木さんの死因の説明を始めた。

検察官「次の証拠は芳江さんの死因の捜査報告書です。頭や顔面、頸(けい)部に22個の傷があります。1〜22番で表記します。医師は21番の傷、首の右の刺し傷が主たる致命傷と結論づけています。また、12番の左首の刺し傷も致命傷になりうるとしています」

「21番の刺し傷と12番の刺し傷、その後にその他の傷の写真を模写して図にしたものを、順次示していきます」

 左から2番目の女性裁判員は微動だにしない。

検察官「これが首のライン、これが肩のラインです。お分かりでしょうか?」

 検察官が問いかけるが、若園裁判長が軽くうなずくだけで、裁判員らは反応しない。

検察官「別の図面は参考文献の人の首の図に、刺し傷を入れた略図です」

 右端の男性裁判員は伏し目がちにモニターを見つめている。

検察官「刺し傷は右の首の静脈を切り破っています。傷の深さは約7センチで、0・7センチの静脈を切り破っています。医師は死因を右内頸静脈切破(せっぱ)による失血と結論づけています。死亡までは2、3分で、ほぼ現場で即死であるとしています」

 右から3番目の女性裁判員がメモをとった。検察官は続けて、左の首の刺し傷の略図を説明した。

検察官「左頸部の刺し傷は次の通りです。深さ約10センチで、のどの後ろの壁を3・5センチ切り破り、首の骨を0・5センチ切破しています。医師はこの傷も死因になりうると結論づけています」

「続けて、残りの傷の説明をします。頭頂部の写真を模写した図です。深さ2〜5センチの刺し傷があります。顔の写真を模写した図です…」

 右から3番目の女性裁判員は右手を口にあててモニターを見ている。検察官は淡々と傷の説明を続けていく。

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