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初公判(2010.10.19)

 

(4)「もう無理です」と拒む被害者に「なぜ会えない」と待ち伏せ 一方通行の思いが惨劇に…

犯行現場

 東京都港区で昨年8月、耳かき店店員、江尻美保さん=当時(21)=ら2人が殺害された事件で、殺人などの罪に問われた元会社員、林貢二被告(42)の男性弁護人が冒頭陳述を読み上げている。

 林被告は江尻さんが働いていた耳かき店に客として通っており、弁護人は昨年4月5日の、店での2人のやり取りを説明した。この日、林被告は体調が悪そうな江尻さんを気遣い、帰宅するよう促したが、江尻さんは「売り上げが落ちてしまうから」と仕事を続けたという。

弁護人「被告は午後3時ごろから店にいましたが、最後はいらだって『もういい』と言って帰りました」

 その後、林被告が指名予約のメールを送ると、江尻さんから「無理です」という返信が来たという。

弁護人「被告が理由を尋ねても、美保さんのメールに理由は書かれていませんでした。被告は4月5日の自分の態度以外に思い当たることがなく、美保さんとは個人的信頼関係があるため、直接謝罪して誤解を解き、また店に通いたいと思いました」

 林被告はJR秋葉原駅の改札で江尻さんを待ち、その姿を見かけたものの声をかけられなかった。そこで、江尻さん方近くの東京・新橋で江尻さんに話しかけたが、江尻さんは「無理です」と言って立ち去ってしまったという。

弁護人「被告は『なぜ会えない理由を言ってくれないのか』と思い悩むようになり、堂々巡りを繰り返すうちに、次第に眠れなくなり、食欲もなくなっていきました。悩んでも、考えても、拒否される理由が分からず、美保さんと会って理由を聞いて誤解を解くしかないと思うようになりました」

 このため、林被告は昨年7月19日、江尻さんに会って理由を聞こうとしたが、江尻さんは「もう無理です」と告げ、走り去ったという。

弁護人「翌日にメールを送りましたが、メールアドレスが変わっていました。このため、被告はやはり会って誤解を解くしかないと思い、8月1日にも新橋へ行きましたが、会えませんでした」

 拒否される理由が分からないまま、悩みを深めていったという林被告の様子を、男性弁護人が詳細に説明していく。

弁護人「被告は、楽しかった『安らげる場所』には戻れず、その理由も分からないからもうダメだ、という思いが強くなっていきました。睡眠不足、食欲不振、集中力の欠如は限界でした」

 一方、林被告が事件前日の昨年8月2日に定期券を購入し、役所に翌日提出する予定だった持病に関する書類を記入していたことから、弁護人は「この日までは、美保さんを殺そうとは考えていなかった」と強調した。

 続いて弁護人が、主張の4点目として、林被告の犯行時の精神状態を挙げた。法廷内の大型モニターには「(1)判断やコントロール能力の相当程度の減退(2)(祖母の鈴木)芳江さんへの犯行:パニックだった(3)美保さん:攻撃の中止」といった文字が表示されている。

弁護人「1つ目は、被告に百パーセントの責任を問える精神状態であったのかという点です。2つ目は、芳江さんへの犯行はパニック状態によって引き起こされたものでした。3つ目は、美保さんへの殺意は強固なものではなく、途中で攻撃を止めているという点です」

 弁護人は、林被告が包丁をむき出しでカバンに入れたまま、刃が刺さる危険を気にせずに通勤ラッシュの電車に乗っていたこと、江尻さん宅の玄関が施錠されている可能性を考えていなかったこと、江尻さんの家族が家にいることを想像していなかったことなどを説明した。

弁護人「どれも普段の被告であれば当然に考えることですが、当時はこれらを考えられない状態でした。このときの被告の心理状態は、拒絶されている理由が分からずに困惑している状態、美保さんのことだけを考えている状態、眠れなくなり物事をきちんと考えられない状態、という3つが重なっていたと考えられます」

 被告人席の林被告は、目線を床に落としたまま、じっと耳を傾けている。

弁護人「われわれ弁護人は、心神耗弱の主張はしていません。しかし、犯行時の判断やコントロールする能力は、相当程度に困難な状態だったと考えられます。責任を負うべき問題は、0か100かの問題ではなく、80パーセントや70パーセントの責任を負うべき場合もあります。犯行時の被告の精神状態が、どの程度の責任を負わせるべき状態であったのかを考えてください」

 弁護人は、鈴木さんへの犯行状況などについても言及した。

弁護人「芳江さんに襲いかかったときの精神状態は、パニック状態でした。また、美保さんのお母さんとお兄さんの声に気づき、美保さんへの攻撃を止めています。その後、お母さんとお兄さんが外に逃げ、家に美保さんと取り残されましたが、美保さんには何もしませんでした。これは、美保さんへの殺意が強固なものでなかったことを示しています」

 さらに弁護人は主張の5点目として、被告の反省状況を挙げた。

弁護人「犯行後に正気に戻った被告が、どれだけ悔やみ、反省しているかにも注目していただきたい。被告は事件当日の夜から反省して泣いていました。翌日の取り調べでも泣いていました。美保さんが亡くなるまでの1カ月余りの間、毎日、美保さんの回復を祈り続けていました」

 そして、「被告が事件を後悔し、反省していることは、これから数日間の公判での被告の態度も含めて、見ていただきたいと思います」として、弁護人は冒頭陳述を締めくくった。

 この後、若園敦雄裁判長が、公判前整理手続きの結果、争点が情状面に絞られていることを明らかにした。今後の公判の進め方を説明し、休廷を告げた。約2時間の休憩をはさみ、午後は1時15分から審理が再開される。

⇒(5)「冷蔵庫や壁にも血痕」「首の刺し傷」… 生々しい現場写真に伏し目がちの裁判員