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(6)警察官「やるかやられるかだった」 加藤被告との格闘証言

現場に居合わせて、加藤智大(ともひろ)被告(27)を現行犯逮捕した警察官の男性証人に対する尋問は、事件後の対応や処罰感情に移った。

検察官「被害を受けて防護衣の着用に変化はありましたか」

証人「地域課に加えて交通課でも着用を義務付けられました」

検察官「今回の事件を機に?」

証人「はい」

検察官「今回の事件で証人も刃物で突かれるような被害を受けましたが、被告に対してどういう気持ちですか」

証人「自分が被害者の立場だったらどういう気持ちだったかをもう一回考えてほしい。やったことに対して相当の処分を望みます」

検察官「私からは以上です」

検察官の尋問は終了し、弁護人の尋問に移る。

弁護人「拳銃(けんじゅう)を向けたときの被告の表情はがっかりしたようなものだったと先ほどおっしゃっていたが、調書だとおびえたような表情だったとあるが、そういう感じだったのか」

証人「はい」

弁護人が証言台のそばに行き、大型モニターに映し出されている図面の位置を調整した。交差点付近が映し出された。

弁護人「最初、交番でガシャンという音を聞いたときのことをうかがいますが、あなたは被告がトラックを降りて走っていったのを見ていませんか」

証人「はい」

弁護人「白っぽい服の男がトラックを運転していたかわからない?」

証人「よく覚えていません」

弁護人「マル1の地点で男を見ましたか」

証人「はい」

加藤被告が交差点にトラックで突っ込んだ直後の車の位置関係などを質問する弁護人。続いて加藤被告と証人が向かい合った場面に移る。

弁護人「男は走ってくる最中に声を上げていましたか」

証人「いろんな人の悲鳴でかき消されていて覚えていません」

弁護人「男の手の動きは?」

証人「ひじを直角に曲げて肩から当たってくる感じ。走っているときは右手を突き出す感じでした」

弁護人「見ていた人の中には、被告は手を地面と水平になる感じにして走ったという人がいましたが」

証人「覚えていません」

弁護人「K1からK2にKさんが移動するのは見ましたか」

証人「気づいたら人垣で被告が止まっていました」

事件現場の交差点からJR秋葉原駅方向に南下して路地に入る直前の様子を質問する弁護人。証言台横の図面を調節して大型モニターに、加藤被告が拘束された路地付近を映し出した。

弁護人「人垣というのはどの辺ですか」

証人「歩道上や車道の付近です」

証人は図面に人垣の範囲を図示した。道路の端から端まで人垣ができていたようだ。

弁護人「何人ぐらいいましたか。大体でいいです」

証人「100人ぐらいいたと思います」

弁護人「マル3からマル4に南下したとの話ですが、Kさん以外に倒れている人はいましたか」

証人「おりません」

弁護人「あなたが追いかけているときに『待て、やめろ』と声をかけましたか」

証人「はい」

弁護人「警察官ということはその時点で言っていませんか」

証人「そのときは言っていません」

弁護人「被告と対峙(たいじ)したときのことをうかがいますが、対峙して格闘している間、被告は『わー』とか声を上げていましたか」

証人「無我夢中で覚えていません」

弁護人「確認しますが、あなたが直接(ナイフの攻撃が)当たったと感じたのは最初の一撃ですか」

証人「はい。後からほかに当たったかもしれません」

弁護人は証人が万世橋警察署に配属され、防護衣を支給されたことについて聞いていく。

弁護人「(防護衣の)中のものも(新たに支給されたのか)?」

証人「中はちがいます」

弁護人「毎日着用していましたか」

証人「はい」

弁護人「中の防護板は取り外しますか」

証人「取り出すこともありますが…」

警察官が加藤被告と格闘したときに着用していた防護衣や防護板についた傷について、詳しく尋問する弁護人。防護板の傷は、加藤被告以外に傷つけられたものではないかと疑っているようだ。

弁護人「対峙したときのことに戻ります。最初は(ナイフを)突き出してきましたか」

証人「はい」

弁護人「ナイフを持っている手に警棒を振り下ろした記憶はありますか。ナイフを落とそうとしたんですか」

証人「そういう行動をとっていると思います」

弁護人「手に当たったかは覚えていませんか」

証人「覚えていません」

弁護人「警棒は何センチでしたか」

証人「柄の部分を合わせて60センチです」

弁護人「警棒は肩に当たりましたか」

証人「よく覚えてないです」

弁護人の質問は、証人が加藤被告と対峙した場面についてに移る。どのように証人が加藤被告に警棒を振り下ろしたのかを細かく質問する。

弁護人「路地に入る前のことを聞きますが、この時点で拳銃のホルダーに手はかけましたか」

証人「覚えていません」

弁護人「路地入り口のところで警棒はしまいましたか」

証人「その付近で収めるとナイフで刺されたと思います」

裁判長「あとどれくらいですか」

弁護人の質問はまだ続くようだ。速記担当が交代した。

弁護人「マル6の位置で対峙したときの話ですが、『撃つぞ』と言ってもナイフを下ろさなかったが、もう一度言ったところ、ナイフを下ろしたとのことですが、両手を被告が上げたのはいつですか」

証人「落としてから上げたと思います。1度目の警告をした後、ナイフを落としてから被告が『ナイフ落としました』とか言ってから、手を上げたと思います」

弁護人「それから崩れ落ちるようになって上から乗っかった感じですか」

証人「はい」

弁護人「靴下にあったナイフについてですが、走っていて落としたと言いましたか」

証人「そのような感じで言っていたと思います」

証人に対する質問はここで中断した。弁護人は検察官のいる場所へ移動し、証人が身に付けていた耐刃防護板を検察官と確認している。加藤被告もそれをじっと見ている。防護板についた傷を確認しているようだ。そして弁護人は防護板を証言台の証人の所に持ってきて、見せながら質問した。

弁護人「全体的に縦にすれた傷がありますが、これはいつのものですか」

証人「分かりません」

弁護人「他の人から受け継いだもので分からないということですか」

証人「わかりません」

弁護人は弁護人席に戻った。その後別の弁護人に交代し、質問が続いた。

弁護人「証人が最初に対峙したときのことをうかがいますが、振り返って対峙したときの被告の表情は?」

証人「私の方に向かってくるような表情でした」

弁護人「おびえたような表情ではない?」

証人「そういった表情ではないです」

弁護人の尋問はこれで終了した。その後、検察官は証言台横の図面を調整し、トラックが突っ込んだ交差点近くを示した。

検察官「あなたと被告の間に車が止まっていたということですが、被告とかの位置は見えましたか」

証人「はい。邪魔にはなっていません」

検察官「対峙して被告がついてきた状況をうかがいます。その状況を事件の年の9月に警察庁で再現していますね。思いだしたことは?」

証人「ナイフに警棒を振り下ろしたのを思いだしました」

検察官「その際に踏み込んでくる被告の額に当たったのを意識しましたか」

証人「そう感じました」

検察官「防護衣の傷と中の板の傷は重ねると一致するのは確認しましたか」

証人「はい」

検察官の質問は終了。次に向かって左側の男性裁判官が、対峙したときの様子を尋問した。

裁判官「被告に対峙したとき、警棒を「8」の字に振ったというのは意識してやったんですか」

証人「逮捕術の術科訓練でやった通りにやりました。凶器を振り回させないようにです」

裁判官「被告はすきを狙ってナイフを振ったように見えましたか」

証人「私もやるかやられるかだったので覚えていません」

裁判長「尋問としては終了です。示した図面に名前と日付を記入してください。長時間お疲れ様でした」

裁判長が尋問の終了を告げた。証人は、傍聴席や裁判長に一礼し、早足で退廷。ここで20分程度の休廷に入った。

⇒(7)署へ向かうパトカーの中、加藤被告は泣いていた