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(4)加藤被告逮捕の警察官「女性の背中にナイフが」

約2時間の休廷が終わり午後1時半、加藤智大(ともひろ)被告(27)が向かって左手の扉から入廷してきた。ドアが開くと午前中と同様、傍聴席に向かって一礼した。静かに弁護人の前の長いすに座った加藤被告を見届けると、村山浩昭裁判長が開廷を告げた。

裁判長「それでは午後の審理を始めます」

向かって左手から短髪でスーツ姿の中年男性が入廷。偽証しないことを誓う宣誓書を大きな声で読み上げた。検察官が尋問を始める。

検察官「証人は警察官ですね」

証人「はい」

警察官らしく顔は上向き加減で背筋をピンと伸ばし、快活な受け答えだ。

証人は平成元年4月に警視庁警察官を拝命。以降、城東警察署や機動隊での勤務を経て、20年5月21日に万世橋警察署地域課地域第4係に配属。その後、同年9月16日に警務課留置係勤務となり、現在に至るという。

検察官「巡査部長にあたるわけですね」

証人「はい」

検察官「証人は20年6月8日当時、万世橋警察署地域課地域第4係に勤務し、事件当日は秋葉原交番に勤務していたのですね」

証人「はい」

検察官「証人は左側の被告のことを知っていますか」

証人「はい」

証人は加藤被告の方を振り向かず、前を向いたまま答えた。一方の加藤被告はテーブルの上に開いたノートに目を落としたままだ。

検察官「証人は6月8日午後0時半過ぎ、被告人が起こした事件の状況を目撃していますか」

証人「…もう一度お願いします」

検察官「証人は6月8日午後0時半過ぎ、被告が起こした事件の状況の一部を目撃していますか」

証人「はい」

検察官「証人自身も被告から攻撃を受けていますか」

証人「はい」

検察官「証人はその後、被告人を現行犯逮捕していますか」

証人「はい」

検察官「6月8日当日は午前9時ごろから秋葉原交番で勤務していましたか」

証人「はい」

検察官「服装はどのようなものですか」

証人「夏服で制帽、長袖シャツ、その上に耐刃防護衣を身に付けていました」

検察官は、ポリ袋に入った耐刃防護衣や、内側に入っている金属板、サイドプロテクターなどを次々と証人に示していく。最後に大型モニターに警察官の写真を示し、当日の服装を確認した。その後、事件当日の具体的な質問に入った。

検察官「6月8日午後0時半ごろ、証人は具体的にどのような職務をしていたのですか」

証人「秋葉原交番入り口付近で立番(りつばん)勤務をしていました」

検察官「立番勤務とは、交番前に立って、警戒や地理案内をすることですね」

証人「はい」

検察官「証人のほかに誰かいましたか」

証人「交番相談員のナカガワさんがいました」

検察官「何か異変があったのですか」

証人「外神田3丁目方向からガシャンと大きな音がしました」

ここから検察官は大型モニターに現場の見取り図を映し出し、証人に赤ペンで位置などを記入してもらいながら質問していく。

検察官「何が起きたと思いましたか」

証人「交通事故が発生したと思いました」

検察官「何か見えましたか」

証人「右斜め前方から白いトラックが止まるのが見えました」

検察官「トラックはどのような状況でしたか」

証人「フロントガラスがクモの巣状に割れたりしていました」

検察官「トラックを見てどう思いましたか」

証人「交通人身事故が起きたと思いました」

検察官「証人は近くにいた交番相談員のナカガワさんに、トラックの運転手について何か言われましたか」

証人「はい。『運転手が降りて外神田3丁目の方へ向かった』というようなことを言われました」

検察官「トラックの状況とナカガワさんに言われたことを踏まえて、証人はどう思いましたか」

証人「交通上のトラブルか、けんか等が起きるのではないかと思いました」

検察官「証人はどういう行動を取りましたか」

証人「外神田3丁目の方向を向いて走りました」

検察官「走っているときに何か見ましたか」

証人「3、4人が倒れていました」

検察官「周囲にも人がいましたか」

証人「救護している人がいました」

検察官「服装で特徴があった人は?」

証人「警察官です」

検察官「その警察官は何をしていましたか」

証人「しゃがんで救護していました」

ここで検察官が証人に視力を確認。左右とも裸眼で2・0という。

検察官「警察官を見ながら走っていて、どういう状況を目撃しましたか」

証人「白い服を着た男が警察官に近寄るのが見えました」

白い服の男は、実際にはベージュ色の上下を着ていた加藤被告である。

検察官「白い服を着た男は走っていましたか」

証人「はい」

検察官「白い服の男はどういう行動に出ましたか」

証人「右ひじを曲げて、警察官の背中にぶつかるように見えました」

検察官「警察官はどういう体勢でしたか」

証人「立とうとしたところでした」

検察官「白い男の右手には何があったのですか」

証人「よく見えませんでした」

証人は、引き続き、見取り図に位置関係を書き足していく。検察官は、画面を拡大した。ここで、加藤被告は、落としていた視線を上げ、大型モニターを数秒見つめた。

検察官「その後、男はどのような行動を?」

証人「付近の人や救護の人にぶつかっていくように見えました」

検察官「男は走りながらぶつかっていったと?」

証人「はい」

検察官「男が走り去った後、救護していた人たちに何が起きましたか」

証人「みんな、ひざから崩れるように路上に倒れました」

証人は、いったん立ち止まった際、男の右手にナイフようのものが握られていることに気づいたという。

検察官「証人は男の行動などを見て、どう思いましたか」

証人「ナイフによって刺されたと思いました」

検察官「どうしようと思いましたか」

証人「すぐに対応しないといけないと思いました」

検察官「男の行動を止めようとしたのですね」

証人「はい」

検察官「証人はどのような行動に出たのですか」

証人「中央通りを南下していきました」

検察官「男を追いかけていったということですね」

証人「はい」

検察官「男を追いかけながら何か行動を取りましたか」

証人「無線の緊急ボタンを押して、警棒を取り出しました」

加藤被告とみられる男はその後、周囲の人たちにナイフを突き出すような素振りをみせながら、逃げ遅れた女性被害者Kさんに近づいたという。

検察官「証人は男を追いかけながら何か言いましたか」

証人「はい。待て、やめろ、と言ったと思います」」

検察官「男はどういう行動に出ましたか」

証人「Kさんの背中の下の方にナイフを突き出すようなことをしました」

検察官「ナイフはKさんの背中に当たったのですか」

証人「当たりました」

検察官「証人と男の距離はどのくらいでしたか」

証人「3、4メートルです」

検察官「証人はその際、どう思いましたか」

証人「Kさんに対する殺人未遂で現行犯逮捕できると思いました」

検察官「男はその後、どのような行動を取りましたか」

証人「南下していって、人垣で(その先に)行けなくなりました」

検察官「男は証人に対して向き直したのですか」

証人「はい」

⇒(5)拳銃向け「撃つぞ!」加藤被告は「ナイフを落とし、崩れ落ちるように座った」