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(3)警察官の防護衣に3カ所の傷

事件現場となった秋葉原の中央通り交差点近くに勤務する目撃者の男性証人に対する弁護側の尋問が終了した。続いて検察官が証人に、現場の見取り図に証人が書いた加藤智大(ともひろ)被告(27)や加藤被告のトラックがどこにいたかを示した記号の追加説明を求めていく。

検察官「ちょっとだけうかがいます。図面の補充などです。トラックの位置を先ほど書いてくれましたが、図面に『トラック』と書いてください」

検察官は証言台の証人のそばに立って指示した。

検察官「マル1からマル6の男の位置について、マル2とマル3は男が移動した方向を矢印で書いてください」

同様に矢印を書く証人。法廷内の大型モニターに証人が矢印を書く様子が映し出される。

続いて、3人の検察官は、現場で撮影された写真を証人に示した。

検察官「この画像にはあなたは写っていますか」

証人「はい」

検察官「黒ボールペンで囲ってください」

証人は指示通り、写真に写った自身を囲ったようだ。

検察官「これはガードレールに乗っている場面ですか」

証人「そうですね」

検察官「どういう場面ですか」

証人「ごめんなさい。記憶にないです」

検察官「覚えていない理由は?」

証人「自分自身パニックになっていたので…」

検察官「写っているのはあなただが、記憶にありませんか」

証人「はい」

証人は最後に勤務先を赤丸で囲み、図面の補充は終了した。

裁判長「弁護人は質問ありますか」

弁護人「ありません」

検察官「検察官から1つだけ。先ほどの証言で、警察官が中央通りの交差点の南から走ってきたというのは確実ですか」

証人「はい」

加藤被告を取り押さえた警察官が、中央通りのどこから走ってきたのかを確認する検察官。

検察官「これまでの裁判では北から走ってきたというのはたくさん証言があったが、北からの間違いでは?」

証人「僕の記憶では間違いないです」

検察官「覚えているのを正直に言ったということですか」

証人「はい」

裁判長「それでは尋問としては終了します。印をつけたものがあるので、それらに今日の日付とお名前を」

検察官らが証言台の証人を取り囲み、名前を記入する場所などを指示した。証人は書面や図面をめくりながらサインした。傍聴人や加藤被告はその様子をじっと眺めていた。

裁判長「証人はおつかれさまでした。退廷してください」

男性は証言台で裁判長に一礼、そして法廷の出入り口前で一礼して退廷した。続いて証拠調べに移る。

裁判長「検察官は準備は良いですか」

検察官「はい。それでは証拠を展示していきます」

白い手袋をした検察官が、現場で加藤被告に傷つけられた警察官の防護衣などを裁判長や傍聴人に示しながら、証拠調べを進めていく。

検察官「この耐刃防護衣には正面と背面に『警視庁』と書いてありますが、正面の『警視庁』の字の所に3カ所損傷があります。また、左胸部、側胸部に刃物で切られたことによる損傷が認められます」

紺色の防護衣を弁護人、続いて裁判官が確認した。加藤被告も弁護人が防護衣を確認している様子を見つめている。

検察官「耐刃防護板を展示します。こちら金属製のもので、左胸に斜めにこすりつけられた損傷が認められます」

防護衣の中身である小さな板を何枚も組み合わせて作られた6角形の金属板を弁護人、続いて裁判官が確認した。静かな廷内に金属の「カチャカチャ」という音が響く。

検察官「続いて耐刃防護板カバーを展示します。白色の布製だが1カ所穴が空いているのが分かります」

同様に弁護人、裁判官が確認した。

検察官「続いてサイドプロテクター1組を展示します。こちら2つで1組で、片方は縦に流れるようにこすれた跡が付いているのが認められます」

同様に、検察官が両手で持ち上げて傍聴人らに展示した後、弁護人、裁判官に示された。

検察官「最後にサイドプロテクターカバーを展示します。紺色の布製で2つのうち1つにはサイドプロテクターカバーと書いてある布が張り付けられていますが、そこにちょうど穴が空く形で損傷があります」

検察官が同様に持ち上げて展示した後、弁護人、裁判官が確認した。加藤被告は時折、弁護人の様子に目をやっている。

検察官「証拠物の展示は以上です。証拠は、午後の証人尋問で証人に示して使用します」

裁判長「証拠物を午後使うのは、もちろん認めます。午前中の証拠調べの予定はここまででよろしいですか」

検察官「結構です」

裁判長「証人尋問の時間が短めだったので、午前はこれで終了。午後1時30分から再開とします。それでは被告人は退廷してください」

午前の審理は終了。加藤被告は傍聴席に向かって一礼して退廷した。

⇒(4)加藤被告逮捕の警察官「女性の背中にナイフが」