(8)「自虐的」「未熟で子供っぽい」「被害的」… 精神鑑定結果

約30分の休憩が終わり、午後3時15分、村山浩昭裁判長が加藤智大(ともひろ)被告(27)の入廷を告げた。
加藤被告は、傍聴席の手前で軽くうなずくと、数歩進んでいつものように無表情のまま一礼。弁護側の前の長いすに腰をかけた。
裁判長「すでに採用決定がなされている甲の98について同意部分の取り調べを行います」
男性検察官が、加藤被告の精神鑑定書のコピーを配った。加藤被告の机の前にも置かれた。
検察官「甲98号は、鑑定人××作成の精神鑑定書です。本体と別紙1〜9で構成し、別紙部分について不同意があります」
検察官が、精神鑑定書について読み上げを始めた。加藤被告も机の上に置かれた精神鑑定書に目を落としている。
鑑定は、16回各3時間の個人面接、頭部MRI、身体検査、両親の面接などが実施された。
検察官「被疑者は、犯行当時、有利な所見や症状があったとは認められなかった」
「あらゆる精神障害を検討し、精神遅滞や解離性障害などより広義の精神障害などの診断も検討したが、いずれも該当しなかった」
精神疾患の罹患(りかん)がなく、犯行当時に与えた影響もないとされた。
男性検察官はハッキリとした声で、動機や犯意についての読み上げを続けた。
検察官「被疑者は、成育課程において、親への信頼感や家庭への帰属感を持てずにいた」
「高校や望んで進んだ短大でも成功体験を得られなかった。家族とは、一時関係が修復したが、平成19年夏ごろに両親に離婚の話があった」
平成19年夏には自殺を試みた加藤被告。家族から独立した道を歩んだ。
検察官「恋愛や周囲からの孤立感を深め、ほとんど不満を他者に相談しようとせず、唯一の不満のはけ口を携帯の掲示板に没頭するようになった」
「たまたま(事件の)3日前に(勤務先で)つなぎが見あたらないことに端を発し、自分になりすます者や、発言を邪魔する人たちに向けて、嫌がらせがどんな結果を生むか思い知らせようとした」
犯行1日前には、身の回りを整理し、レンタカーを用意。当日は、事件現場の交差点を3回通過するなど具体的な逡巡(しゅんじゅん)があった。
加藤被告は、表情を変えず、やや背中を丸めて精神鑑定書を見ている。
検察官「被疑者は、不満を鬱積(うっせき)させて、一気に暴発させる精神行動が学童期から見受けられる」
短大では、寮に忍び込み、仲間をエアガンで撃つ計画を立てた加藤被告。平成19年には中央線に飛び込んで自殺しようとした。
続いて、加藤被告が犯行の一部について記憶がないとされていることに言及した。
検察官「単なる記憶の不鮮明であって、思考や行為をしていた時点ではハッキリしていた。十分に周囲の状況を把握し、自らの自発的意志で行動しているのは明らか」
「被疑者が無我夢中の状況を示唆するものであって、重い乖離(かいり)障害など深刻な病理はないし、刑事責任能力とは全く異なる」
「単に制御能力から判断してみても、立てた計画をもとに行動し、その課程には了解可能な逡巡も認められる」
「供述態度も冷静で、理路整然とし、分からないことは分からないと述べることもできる。現在までの供述内容は全般的に信頼できるものと思われる」
男性検察官は続いて、別紙の同意部分に入った。
孤立感を深めた加藤被告が犯行に及ぶ経過に再び触れた。続いて加藤被告の心理検査の所見を読み上げる。
検察官「標準以上の知能を有している」
「極端な能力の落ち込みは認められない」
「発達障害を懸念する材料はない」
「意識的にしろ無意識的にしろ、自虐的に見ようとする傾向がある」
「他者への思いやりに乏しい」
「未熟で子供っぽい」
加藤被告は、法廷に響く、男性検察官の声にじっと耳を傾けている。
検察官「基本的に周囲からひどい仕打ちを受けていると感じ、被害的である」
「社会的不適応を起こしやすい」
「本人にとって不満のない環境なら熟考する長所を発揮するが、そうでなければ独善的で援助を求めにくい傾向が示唆される」
「母を元凶としてとらえているようである」
「葛藤(かっとう)場面で常識的な反応と異なる反応をする場合がある」
「欲求不満であることが限界に達すると、自分か他者に不満の矛先を向ける可能性がある」
「精神疾患を積極的に示唆する反応はなかった。現在は事件の後悔などで抑鬱(よくうつ)的状態にはある」
加藤被告は目の前の机に広げたノートにペンを走らせている。
「脳波検査で明らかな異常はなかった」
「頭部MRIで異常所見なし」
「血液尿検査で異常所見なし」
男性検察官は低音が効いた小気味のよい声で次々と読み上げていく。
検察官「3日前から準備をしており計画性がある。犯行時の行動は瞬時の行動ではない。被疑者はもともと明るい性格だが、根底では自信に欠け、思い通りにならなければ、暴力的になることがある。この元々の性格が基盤となって事件を起こした。犯行時の精神状態と、普段の性格に断絶はなかった」
「供述で事件の説明や反省を述べていることは、犯行時に自分の行動を理解していたことを示唆している」
加藤被告はこれまでの公判で犯行時の詳細な記憶がないとしていた。××鑑定人は加藤被告の健忘症の可能性について考察する。
検察官「健忘症の所見は認められない。『今から思えば、よく覚えていない』というものにすぎない」
表情を変えずに聞き入る加藤被告。ここで検察側による精神鑑定書の読み上げが終わり、村山裁判長はこの日の審理終了を告げた。
次回公判は9月14日午後1時半から、103号法廷で開かれ、××鑑定人への尋問が行われる。村山裁判長が最後に改めて、加藤被告に対して次回期日や審理内容を説明すると、加藤被告は村山裁判長の方を向きながら小刻みに数回うなずいた。