(7)動機は「悩み、苦しみをアピールするため」「ネット住人への復讐」とも
男性検察官による加藤智大(ともひろ)被告(27)の供述調書の読み上げが続き、加藤被告が捜査段階で供述した犯行の動機や背景が述べられていく。
検察官「6月いっぱいで仕事がなくなるとわかって投げやりになり、派遣先の工場でつなぎがなくなったことに腹を立て、やけになりました。これまでの人生のうっぷんがダムが決壊するように出てきて、事件を起こしてしまいました」
「悪いことだと分かっていました。事件を計画していることに気づいてほしい、気づいた人に止めてもらえないかと思い、携帯サイトに『ナイフを買いました』とか、自分の行動を書き込みました」
男性検察官は、加藤被告が公判での被告人質問で、犯行動機について「掲示板への嫌がらせをやめさせるため」などと、捜査段階での供述と異なる発言をしているため、その違いを強調するかのように繰り返し述べていく。
検察官「(犯行の動機は)一言で言うと、アピールのためです。自分がどれだけ悩み、苦しんでいたか、世の中の人に分かってほしかったのです。人並みに恋愛し、家庭を持ちたかったですが、異性と交際できず、仕事の悩みも絶えませんでした。こうした心境や悩みを分かってほしかったのですが、誰も分かってくれませんでした」
「そんなとき職場でつなぎがなくなり、ここでもいなくていい存在なんだと思いました。自分がどんなに悩み、苦しんでいたかをアピールしたいと思い、事件を実行しました」
検察官は加藤被告が調書の末尾で訂正した部分を紹介した。加藤被告は、調書の中で「世の中の人」とあるのはネットの世界の人を含んでおり、どちらかというとネットの人が主なので、その点をつけ加えることなどを求めたという。
加藤被告は時折、耳を触りながら、男性検察官の読み上げを聞いている。検察官は再び、加藤被告が捜査段階で供述した犯行動機を読み上げた。
検察官「6月5日につなぎがなくなっていたことをきっかけに、事件を起こすことで人間関係に悩み、苦しんでいたこと、ネットで私を無視した人にアピールしてやろうと思い、事件を起こしました」
「大きな事件を起こすことで、ネットの人に驚いてもらい、存在をアピールしたいと思ったのです。復讐したいとも思っていました。ネットの人たちに、私の書き込みを無視したからこういう事件が起きたのだと思わせたかったのです」
加藤被告は指先で顔をかき、めがねを直すなど、落ち着かないそぶりを見せた。
続いての調書では、加藤被告が(平成20年)6月8日に秋葉原に着いてから、事件を起こすまでの行動が述べられた。加藤被告は警察官に対し、ナイフを振り回したりした記憶はないと供述し、逮捕後の万世橋署の取調室では泣いたという。
検察官「やらなければよかった。自分がしたことを悔やんでいます。まだ若い人の未来をつみ取ってしまった。申し訳ない気持ちがあるが、どう伝えていいのかわからない。バカなことをしたと思っているし、何と言っていいのか分からない。処罰を受けるのは当然だと思っています」
男性検察官が「乙号証の内容は以上であります」と述べ、村山浩昭裁判長は「乙号証の取り調べは終わりましたので、少し休廷をとります」と告げた。加藤被告は傍聴席に一礼し、退廷した。
30分間の休憩をはさみ、午後3時15分から審理が再開される。