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(6)「掲示板は生活の重要な一部」事件直前まで書き込み

検察官が冒頭陳述を終え、引き続き、加藤智大被告(27)の弁護人が冒頭陳述を始めた。モニターのリモコンを手に、証言台の前に歩み寄った弁護人。大きな声で言葉を区切りながら、ゆっくりと語り出した。

弁護人「この事件で明らかにされないといけないことは3つあります」

「一つめは、彼がなぜこの事件を起こしたかということ。二つめは、彼が事件で何をしたのかということ。そして、三つめは彼にどのような責任をとらせるか、ということです」

弁護人は加藤被告のことを「彼」と呼びかける。加藤被告は無表情のままで身じろぎもせず、うつむいている。

弁護人「まず、彼が事件で何をしたのかは、検察官が法廷で明らかにするものです。彼の責任は審理が終わった後、裁判所に判断していただくものです」

「そして、弁護人は、彼がなぜこの事件を起こしたのかについて、明らかにしたいと思います」

弁護人がモニターの電源を入れる。加藤被告の「生い立ち」や「社会人時代」の生活など、ポイントが個条書きにされている。

弁護人「まず、彼の生い立ちについてです。彼は青森市内で労働金庫に勤める父と、母の間に生まれました。3つ下に弟がいて、父は市内に一軒家を購入し、家族4人で生活していました」

身ぶり手ぶりを加えながら、法廷によく響く声で語る弁護人。加藤被告は硬い表情のまま聞き入っている。

弁護人「彼は子供のころから、人一倍、車が好きでした。小学校では4年、5年生で将棋クラブ。6年のときは陸上部に入り、県大会にも出場しました」

「中学でも3年間ソフトテニスをやっていました。中学校でも成績優秀で、学級委員や合唱コンクールの指揮者も務めました」

「高校は県内一の進学校に進み、放課後は友達の家に行って過ごすなどしました。高校の友達とは、就職して青森を離れた後もつきあっていました」

「高校卒業後は、将来車の仕事に就きたいと考え、岐阜県の自動車短期大学に進学しました。短大時代は、バイクでツーリングしたこともあります。高校の友達ともメールでやりとりして、一人暮らしの友人の家に遊びに行ったこともあります」

加藤被告は少し背中を丸め、視線を足元に落としていた。

弁護人「短大卒業後は、仙台の警備会社に就職しました。最初はアルバイトでしたが、仕事ぶりが認められ、警備員の配置などを任せられるようになり、正社員に昇格しました」

「その後も埼玉の自動車工場や青森の運送会社に勤務しました。運送会社では、小学校の給食に出される牛乳を運んでいました。仕事ぶりはまじめで、無断欠勤などはありませんでした。その後、彼は静岡の自動車工場で塗装の仕事をしていました」

「彼の交友は高校の友達だけではありません。同僚と居酒屋に行ったりカラオケに行ったり、東京に遊びに行くこともありました。趣味は運転で同僚を誘い、ドライブやカート場でレースすることもありました」

「これが彼の生い立ちです。これまで事件を起こすようなことは決してありませんでした。また、極悪非道な人生を送ってきたわけでもありません。では、彼がなぜこの事件を起こしたのか。2つの視点で考える必要があると思います」

うつむき加減だった加藤被告は顔を上にあげ、一瞬、弁護人を見つめた。

弁護人「まず、一つめはこれまで述べた彼の生い立ちを通して、彼がどのように育ち、どのようなものの考え方をしていたのか、ということです」

「そして二つめ。彼にとって掲示板とは何なのか、ということです」

加藤被告が事件直前まで書き込みを続けていたとされる携帯電話の掲示板サイト。弁護人は、加藤被告にとって掲示板の存在がどれほど重要だったかを明らかにするという。

弁護人「彼は数年前から、携帯電話の掲示板サイトを利用するようになりました。最初は人の書き込みを見ていましたが、いつの間にか自分でも書き込むようになりました。書き込みは毎日になり、1日に何度も書き込むようになりました」

「掲示板を通して知り合った人と会ったこともあります。青森から福岡まで、車に乗って訪ねました」

「掲示板サイトは、彼の生活の重要な一部になっていました。彼がどのように掲示板を利用していたのか、どういう存在だったのかを解明しなければ、動機を明らかにすることはできないと考えます」

加藤被告は数回、小さく肩を上下させる。固い表情はほとんど変わらない。

弁護人「彼はこの事件を起こしてから、『なぜ事件を起こしてしまったのか』と必死に考えています。どうか彼の話を聞くときは、先ほど述べた2点に着目して、話を聞いていただきたいと思います。以上です」

弁護人は冒頭陳述を終え、村山浩昭裁判長ら裁判官や傍聴席に一礼し、席に戻っていった。

裁判長「弁護側は、責任能力についてあまりお触れにならなかったようですが…。それで結構ですか」

弁護人「結構です」

村山裁判長は弁護人に念を押すように語りかけると、静かにうなずいた。

裁判長「それではこれで休廷し、午後は証拠調べを行っていくこととします」

午前11時29分、村山裁判長は休廷を宣言した。法廷は午後3時に再開される。加藤被告は、傍聴人や報道関係者がせわしなく法廷を後にする様子を、硬い表情で見つめていた。

⇒(7)大量血痕の現場写真、被告はまばたき繰り返し…