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(8)「それは痛いですか」 縛られた手の組織が壊死する状況に思いをはせる裁判員

英国人英会話講師のリンゼイ・アン・ホーカーさん=当時(22)=に対する殺人と強姦(ごうかん)致死、死体遺棄の罪に問われた無職、市橋達也被告(32)の裁判員裁判の第2回公判は、リンゼイさんの司法解剖を担当した女性医師に対する裁判員の質問が続いている。

堀田真哉裁判長が「他の方、何かあればどうぞ」と質問を促した。手を挙げたのは、右端の6番の男性裁判員だ。

裁判員「気道がふさがって輪状軟骨が折れても、ふさいでいる時間が短かければ回復するということですが、それで回復してから日常生活に支障が出たりはしませんか」

男性裁判員は、もし、リンゼイさんが生き残った場合の、首の圧迫による後遺症の有無を心配しているようだ。

証人「本当に短時間で、意識の消失がないくらいだったら可能です」

裁判員からの質問が一段落ついたところで、女性裁判官が質問する。

裁判官「絞まり方が不完全な状態でも気道閉塞(へいそく)が起こるということですが、かける力が15キロよりも弱くても起こりますか」

証人「起こります。完全にふさいではいないけれど、かなりふさいでいる場合ならば起こります」

裁判官同士で何かささやきあっている。書記官のモニターの調子が悪いようだ。

裁判長「機械の具合が悪いので、少しお待ちください」

千葉地裁の職員が来て、モニターを直している。後ろから様子を見ていた書記官が「大丈夫です」と堀田裁判長に伝えた。

裁判長「問題ないということが確認できましたので続けます」

女性裁判官の質問に戻った。

裁判官「顔面や手首に粘着テープの痕跡があったということですが、それ以外の場所ではなかったのですね」

証人「その他の場所については鑑定書が手元にないので」

女性医師は申し訳なさそうに答える。検察官から小さなざわめきが起きた。

女性裁判官に代わって、男性裁判官が、窒息死に至る経緯の一般論について、女性医師に説明を求めた。

裁判官「今まで『窒息の3兆候』や、『窒息の経過と症状』というのは法医学上、確立されたものですか」

証人「はい、ほとんどの教科書に出ております」

男性裁判官は、法医学上の知識について認識に間違いがないか、一つ一つ確認を取っていく。女性医師は「はい」、「はい」と相づちを打っている)

裁判官「気道のふさがり方が不完全なら、窒息死までの経過時間が長くなりますか」

証人「はい」

裁判官「最大どれくらいになりますか」

証人「不完全な窒息というのは非常に珍しいので。個別事例では見たことがありますが、統計は数が少ないのでないです」

裁判官「あまりに(死亡するまでの)経過時間が長いなら、窒息死以外の死因ということになるのですか」

証人「不完全なふさがり方でも死ぬまで絞めていたなら、これは窒息死でいいのではないのでしょうか」

男性裁判官は、リンゼイさんの遺体についての質問に移った。

裁判官「本件で、リンゼイさんに対して、酸素の供給が遮断されたのと、頚部(けいぶ)の圧迫が行われたのは、同じ時間だと思いますか」

証人「およそ同じだと思います」

男性裁判官の質問内容はリンゼイさんの死亡推定時刻に移った。

裁判官「直腸温度では死亡推定に限界があると話していましたが、他の方法でも同じなのですか」

証人「はい。角膜の混濁で見分ける場合は、乾燥というのが問題になります」

遺体の目は、時間がたてばたつほど、乾燥して混濁する。

証人「今回の場合のように土の中に埋まっていると、湿度が高く、時間の経過を分かりにくくします」

裁判官「死後硬直ではどうですか」

遺体は、死後すぐに硬直し始め、その後また、時間がたつごとに硬直がとけはじめる。

証人「全身が硬直するまでの時間は、環境にあまり左右されません。硬直がとけるのは腐敗のせいです。腐敗となると気温に左右されます」

医学上の知識について長い間話しているためか、6人の裁判員はみなうつむきがちだ。

裁判官「弁護士が、リンゼイさんの背中の上に、市橋被告が乗って腕を後ろから首に回しているというのを表した図を示しましたが、これでも、輪状軟骨は折れて、なおかつ頚部の静脈は閉塞しない状態になり得るということでいいのですか」

証人「はい」

男性裁判官の質問が終わり、右から2番目の男性裁判員が手を挙げた。

裁判長「どうぞ」

男性裁判員は、粘着テープで拘束されていた、リンゼイさんの手の状況について質問をする。

裁判員「長い間、水腫状態になるほど、手を圧迫すると、命にかかわる危険はありますか」

証人「命にかかわると言いますか、血流がその部分にいかないので、酸素の供給が止まり、手先の組織が壊死(えし)します」

裁判員「それは痛いですか」

証人「相当痛いでしょうね。完全に組織が死んでしまえば痛みは感じませんが、そこに至るまではかなり痛いと思います」

男性裁判員は女性医師の答えに小さくうなずく。堀田裁判長が促すと、左端の男性裁判員が手を挙げ、リンゼイさんに鼻の骨折がなかったことを確認した。

裁判員の質問が一段落して、堀田裁判長が女性医師に気道の閉塞が不完全な場合では、窒息死に至るまで圧迫時間が長くなることを確認した。

裁判長「閉塞が不完全なほど、長く圧迫しなければならないのですか」

証人「そうなりますね」

続いて検察側が再び女性医師への質問をはじめた。男性検察官が粘着テープのついていた位置について確認した。

検察側の質問が終わると、堀田裁判長は女性医師に退廷を促した。

裁判長「本日はここまでです。次回は明後日7月7日午前10時からこの法廷です。被告人は必ず出廷しください」

堀田裁判長が閉廷を宣言すると、市橋被告は堀田裁判長に一礼。リンゼイさんの両親の方を見ることなく退廷した。

次回、第3回公判では、当時リンゼイさんと同居していた女性の証人尋問と、市橋被告への質問が予定されている。

⇒第3回公判