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(6)蘇生行為の痕跡がないワケは… 「救命のプロではないから」と主張

英国人英会話講師のリンゼイ・アン・ホーカーさん=当時(22)=に対する殺人と強姦(ごうかん)致死、死体遺棄の罪に問われた無職、市橋達也被告(32)の裁判員裁判の第2回公判。リンゼイさんの遺体を司法解剖した女性医師への弁護側による質問が続いている。

弁護側はリンゼイさんの体に残された皮下出血の因果関係に関する質問の後、市橋被告がリンゼイさんに行ったと主張している心臓マッサージや人工呼吸に関する裏付けに移っていった。

弁護人「素人が救命行為として心臓マッサージや人工呼吸をしたとき、痕跡は残るものでしょうか」

証人「人工呼吸は残りません。心臓マッサージはたいてい、肋骨(ろっこつ)が折れるので残ります」

弁護人「肋骨が折れるというのは、心臓マッサージの際、強い力でする場合に折れることがあるということですか」

証人「心臓はカゴのように守られているので、骨の上から押しても伝わりません。折れるくらいの力を加えないと心臓に伝わりません」

弁護人「救命の資格を持っている人がマッサージをすれば、そこまでの痕跡が残るのが普通ということですね?」

証人「他の解剖例ですと、肋骨や胸骨など、1カ所だけではなく、たくさん折れていることがよくあります」

弁護人は救命の“プロ”が行う場合、という点を強調して尋問した。リンゼイさんに関しては、心臓周辺の骨が折れているという結果は出ていない。弁護人は、市橋被告は蘇生(そせい)行為を行ったものの、素人だったために痕跡は残らなかったと主張したいようだ。

弁護人「次に遺体の傷について、先後関係についてうかがいたいのですが」

証人「生前の場合、なかなか順番は難しいです。例外的に骨折を伴うものについては分かりますが。皮下出血や表皮剥脱については難しいです」

弁護人「今回の皮下出血や表皮剥脱について、たくさん体にありましたが、それの先後関係は分かりますか」

証人「それはちょっと無理です」

リンゼイさんの父、ウィリアムさん、母のジュリアさんの2人は身を乗り出すようにして、左隣にいる通訳の言葉に耳を傾けている。

弁護人「最後に死因についてですが、今回、窒息死ということが考えられると鑑定書に書かれていますね。窒息死の原因としては頸部圧迫や鼻孔閉塞(へいそく)と書かれています。これらは気管が閉塞されて酸素が脳にいかなくなるということですね?」

証人「そうです」

弁護人「先ほどの質問では、頸部圧迫の可能性について答えられましたが、鼻孔閉塞による死亡の可能性は法医学的に考えられますか」

証人「否定はできない、というレベルです」

弁護人「被害者は亡くなっていますが、鼻孔閉塞と頚部(けいぶ)圧迫の両方が考えられると?」

証人「うーん」

数秒考え込んだ後、再び、女性医師が証言を始める。

証人「頚部圧迫に鼻孔閉塞がどこかで加わったとしても、鼻孔閉塞は特殊な症状がないので、否定はできないということです」

弁護人「頚部圧迫だと、15分くらいあれば死亡ということでよろしいですか。行為自体が」

証人「完全な心停止に至るまでは15分前後かかってもおかしくないということです」

弁護人「平成19年3月25日午前10時ころに頚部圧迫があったと仮定して、被害者が死亡した時刻が、翌日の3月26日夕ということはありえますか」

証人「蘇生行為が全く行われないとなると…。それだけ長い時間持つにはやはり首を絞めた後に何らかの医療措置をしないと無理ではないかと思います」

弁護側は再び、市橋被告が心臓マッサージなどの蘇生行為を行ったとする主張を裏付けたいのだろうか。

弁護人「確認ですが、救命行為がなければ、頚部圧迫から亡くなるまではそんなに時間がかからないですか」

証人「そうです」

この証人の答えと同時に、弁護人は「終わります」と質問を終えた。続いて、再び検察官が立ち上がり、女性医師に対する再尋問を行った。

検察官「不完全な窒息状態が続いた場合、呼吸停止に陥って心停止するまでの期間は(完全な窒息状態と比べて)違いますか」

証人「それは同じです」

検察官「輪状軟骨を骨折して、それにより気道が塞がった可能性は?」

証人「骨折しても中にへこんだ訳じゃないので、骨折そのもので気道が塞がることはありません」

検察官「リンゼイさんの直腸温度から、死亡時刻は26日午後5時ごろが目安となる、季節によって変わる、とのことでしたが、幅はどれくらいですか」

証人「直腸温度は警察の検視時点のもので、どこまで信頼できるのか判断しがたい点はあります」

この後、弁護側も死亡時刻の特定につながる直腸温度に関する質問を行い、この日、4度目の休廷に入った。

⇒(7)右目のあざ「かなり強い力で暴行」 裁判員ら積極的に質問