(7)廊下から台所に尿の痕跡 壁には血液も付着 検察側立証続く
英国人英会話講師のリンゼイ・アン・ホーカーさん=当時(22)=に対する殺人と強姦(ごうかん)致死、死体遺棄の罪に問われた無職、市橋達也被告(32)の裁判員裁判は検察側の証拠調べが続いている。
事件後に市橋被告の自宅マンションの室内を撮影した写真が廷内の大型モニターに映し出されており、傍聴人らが見入っている。
映し出された写真は玄関にあった透明のゴミ袋の中身だ。検察官は避妊具の袋や使用済みの避妊具があったことを挙げた。
生々しい説明にリンゼイさんの両親は表情を曇らせる。
検察官「玄関たたきには黒い運動靴や黒いハイヒールがありました。運動靴のつま先には被害者のDNA型と一致する血液が付着しています」
脱衣場の様子がモニターに映し出される。入り口の柱には粘着テープが張られ、テープにリンゼイさんの焦げ茶色の毛髪や被告の左手の指紋が検出されたことが示された。
検察官「次は風呂場の様子を写した写真です。浴槽はありません。シャワーのフックには黒いセーターが掛けられ、毛髪10本が付着していました」
検察側は、粘着テープの指紋から、市橋被告が実際に使用したことのほか、遺留されたリンゼイさんの毛髪やDNA型、拘束に使用された結束バンドの位置から、室内でどのようにして被害に遭ったかを立証する方針のようだ。
モニターに玄関側から撮影した廊下の写真が映し出された。廊下から台所の敷居にかけて尿の痕跡(尿斑)が見つかったことが示された。
一般に、首を絞められるなどした場合、被害者は失禁する。このため、捜査の現場では、尿斑の位置が犯罪場所の特定に用いられることがある。
検察官「廊下の壁には、血液も付着しています。写真では赤い矢印で示しています」
「台所には被害者の水色手提げバッグがあり、携帯電話が入っていました。そのほか、着衣などもありました」
スカートやブラウス、ベルトや下着−。モニターに映し出されたリンゼイさんの着衣を見た母親のジュリアさんは手で顔を覆った。
検察官「財布には、外国人登録証や西船橋−小岩間の定期券、1327円が小銭で入っていました」
「台所の床にあったレジ袋には、粘着テープや結束バンドがありました。テープには一部に(リンゼイさんの)焦げ茶色の毛髪が付着していました」
発見された結束バンド17本のうち、切断された10本は切り口が一致したという。リンゼイさんのDNA型と一致する細胞片も検出されており、検察側は実際に犯行で使用されたことを主張する。
その後、男性検察官は居間、6畳や4畳半の和室の状況を説明。リンゼイさんの両親は目を合わせ、小声で何かを話し合った。
4畳半の写真には英語の参考書などが映し出された。室内の床からは45センチ四方の尿斑が見つかったことも明らかにされた。
検察官「6畳の和室にはふすまが立てかけてあります。このふすまは2カ所破れていました」
ふすまの穴はリンゼイさんの抵抗によるものなのだろうか。男性検察官は市橋被告をちらりと見やった。続いて5畳半の洋室内の様子について説明が始まった。
検察官「レジ袋が3つありました。袋の中には脱臭炭やシャベル、ザクロの苗木がありました」
検察側の証拠調べは、リンゼイさんが遺体で見つかったベランダに移った。リンゼイさんはベランダの浴槽内に土をかけられた状態で見つかった。モニターに写真が映し出される。
警察によって青いビニールシートで目隠しされ、浴槽は側板でフタをされ、上に植木鉢が置かれている。
検察官「続いて、遺体の状況について説明します。モニターを消してください」
遺族に配慮し、傍聴席から見える大型モニターが消される。父親のウィリアムさんは顔面を紅潮させ、ハンカチで目をぬぐった。
検察官「遺体のそばには鉄亜鈴があります。土を取りのぞくと、左側面を下にして、体を丸めていました。足には結束バンドが有ります」
再びモニターが映し出される。土を取り除いた後の写真だ。
検察官「毛髪が1束あります。マットレスには表と裏に60センチ、45センチの尿斑がありました」
検察官の説明は、室内の台所や廊下、居間や6畳間の床や畳にあった傷跡に移る。リンゼイさんの遺体や取り外した浴槽を動かした際にできたものだろうか。
検察官「もう一度モニターを消してください」
遺体の付着物について説明がなされた。
検察官「右顔面、左右の前腕、左右の足には天然ゴム系のものが付着していました。(拘束に使用された)粘着テープも天然ゴム系と認められます」
男性検察官は、捜査報告書から被害者の着衣が切られた状況を立証する。リンゼイさんのカーディガンは腕の部分を縦に切られていた。