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(5)「浴槽の土の中に白い肌色の皮膚…」 遺体発見状況に体震わせる遺族

英国人英会話講師のリンゼイ・アン・ホーカーさん=当時(22)=に対する殺人などの罪に問われた市橋達也被告(32)の裁判員裁判は検察側の証拠調べが続く。法廷の大型モニターには、殺害現場である市橋被告のマンションの防犯カメラの映像などが映し出され、女性検察官から殺害当日の状況が説明される。

モニターには、リンゼイさんが殺害された平成19年3月26日午後6時ごろ、マンションの駐車場で、市橋被告がショッピングカートから何かを運ぶ様子が映し出されている。

検察官「市橋被告は5回ほど部屋と駐車場を往復した後、駐車場にカートを残して部屋から出てきませんでした」

大型モニターの映像が消える。

検察官「これから、被告とリンゼイさんが2人で写っている姿を見ていただきます」

大型モニターに、雨の中、マンションの近くを市橋被告とリンゼイさんが歩いている様子が映し出される。ニット帽を被り、傘を差さずに歩いている市橋被告の後ろに、白い傘を差したリンゼイさんがついていく。2人の身長を比べると、リンゼイさんがやや大きく見える。

検察官「エントランスの様子です」

画面が切り替わり、マンションの玄関の映像になる。後ろを振り向くことなく、市橋被告は足早に玄関を通過する。リンゼイさんは傘をたたむために、やや遅れて市橋被告とエレベーターに乗り込んだ。

検察官「エレベーターの中の様子です」

エレベーターの内部の様子が映し出される。先に乗り込んだ市橋被告が、リンゼイさんを待って、4階のボタンを押す。

検察官「リンゼイさんの様子にご注目ください」

リンゼイさんは、そわそわした様子で、しきりに左手首に目をやっている。時間を気にしているようだ。リンゼイさんの母、ジュリアさんは殺害される直前の娘の姿に、目頭を覆っている。

男性検察官に交代し、画面が切り替わる。

検察官「リンゼイさんの勤務状況について説明します」

検察官が、リンゼイさんの同僚男性の供述調書を読み上げる。

検察官「事件当日、英会話学校を無断欠勤したのを聞いて何度も電話を掛けたが、留守番電話になってしまって1度も繋がらなかった」

大型モニターには、同僚男性から提出された、リンゼイさんの勤務状況表が映し出される。

検察官「リンゼイさんは25、26日に無断欠勤をしている。ほかに無断欠勤は1つもなく、真面目に働いていた」

次に検察官は、市橋被告のマンションから、リンゼイさんの勤務先までの時間を述べた。

検察官「電車で30分、自動車で25分ほどです」

大型モニターに、殺害当日、市橋被告が近所のホームセンターで購入したものの内容が映し出される。

検察官「購入したものは、赤玉土14リットルが4袋、園芸土25リットルが2袋、シャベルが1個、発酵促進脱臭剤が2個、脱臭剤が2個、苗木が1本」

検察官は、リンゼイさんの遺体を発見した千葉県警船橋署の刑事の供述調書の内容を大型モニターで示す。

検察官「これから、被告が職務質問された状況、被告が逃走した状況、リンゼイさんの遺体発見当時の状況について説明します」

大型モニターに、『被告が職務質問された状況』と、大きく映し出され、検察官が刑事の供述調書を読み上げる。

検察官「(3月26日)午後8時15分ごろ、リンゼイさん失踪の相談を受けた生活安全課の署員と刑事部の署員数人で、被告のマンションに到着。失踪の原因に、リンゼイさんが最後に目撃されたとき、一緒にいた被告が絡んでいる可能性があるとのことだった」

検察官は、大型モニターに『逃走した時の状況』と示しながら、市橋被告が部屋の扉から顔を出した時の状況について読み進めた。

検察官「セーターを着て、クリーム色のリュックサックを背負った若い男が部屋から出てきて、市橋被告だな、と思った。職務質問をするのに、マンションの共用の廊下上では都合が悪く、被告の自室の状況も確認したかったので、『中に入って話を聞こうか』と言った。被告は、いきなりリュックサックを肩から下ろすと、署員を押しのけて、すごい勢いで走り出し、非常階段を降りていった。私は『逃げたぞ』と叫んで追いかけたが見失った」

検察官は、大型モニターに『遺体発見の状況』と示しながら、刑事が市橋被告の部屋からリンゼイさんの遺体を発見した状況について読み進めた。

検察官「リンゼイさんの安否確認をしなくてはならないと思って、被告の部屋に戻った。玄関を開けると、大きな女性用の黒い靴が置いてあり、リンゼイさんはここにいると直感した。そばのゴミ箱に、銀色の接着テープと、結束バンド、明るい茶色の髪の毛が絡まっているのを発見し、リンゼイさんに危害が加えられているのを確信した」

リンゼイさんの父、ウィリアムさんが市橋被告をにらみつける。市橋被告は微動だにしない。

検察官「リンゼイさんを保護しようと各部屋を確認したが、リンゼイさんはいなかった。浴室の浴槽が外れているのに気付き、確認していないベランダを回ったところ、浴槽が置いてあった。一緒にいた署員が浴槽に詰まっていた土を軽くなでると、白い肌色の皮膚がみえた。触っても反応がなく、土が盛り上がったり下がったりと呼吸をしている様子もなかったので、土に埋まっているのは人間の遺体だと分かった」

生々しく明らかにされるリンゼイさんの遺体発見当時の様子に、母のジュリアさんが、体を震わせ、顔を覆って泣き出した。

⇒(6)モニターに映された犯行時の避妊具 遺族は顔を覆った