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(6)モニターに映された犯行時の避妊具 遺族は顔を覆った

英国人英会話講師のリンゼイ・アン・ホーカーさん=当時(22)=に対する殺人と強姦(ごうかん)致死、死体遺棄の罪に問われた無職、市橋達也被告(32)の裁判員裁判の初公判は、いったん休廷に入ったが、約20分後に再開した。入廷した市橋被告は検察側の後ろに座るリンゼイさんの両親に向かって深々と頭を下げた後、被告人席に着席した。

引き続き検察側の証拠調べが始まり、女性検察官は事件当時、市橋被告が交際していた女性の供述調書を読み上げ始めた。供述は事件があった平成19年3月25日前後に関するものだ。

検察官「24日午後11時ごろ、達也に電話をしたら家にいました。『泊まりに行きたい』と伝えたら、『今日はスポーツジムに行って疲れたから1人で寝たい』と言われました。ただ『ご飯だけならいい』といわれたので、(市橋被告の住む)マンションまで迎えに行き、近くで焼き肉を食べました」

市橋被告は焼き肉が好物だったが、この日はあまり食が進まない様子だったという。食事の後は近くの海岸までドライブをした後、市橋被告のマンション前で別れたという。そして供述は事件当日の3月25日に移る。

検察官「達也の家に電話をしましたが出ませんでした。達也から26日午前0時38分にメールが届きました」

ここで法廷内の大型モニターに交際女性の携帯電話を撮影した写真が映し出される。携帯の画面には市橋被告が女性に送ったメールの文章が出ており、男性検察官が読み上げる。

検察官「××へ(法廷では実名) 達也です。電話くれた? これから1週間ぐらい部屋にこもって勉強します。××には悪いけど、1週間電話を取らない。でも信じてください。メールは構わないです。ではでは」

市橋被告は以前から部屋にこもって勉強をすることがあったため、女性は市橋被告のメールを不審に思わなかったという。市橋被告は出版した手記の中で、警察官から逃走した直後に公衆電話を見つけ、車を所有していたこの女性と一緒に逃げたくて電話したが、話し中だったため断念したことを明らかにしている。

続いて検察官は犯行現場となった市橋被告の住むマンションの状況について説明を始めた。大型モニターにはマンション周辺の住宅地図が映し出され、検察官は近くの学校や駅などとマンションの位置関係を簡単に説明。モニターにはさらにマンションの見取り図、エントランス、市橋被告が逃走に使ったとされている非常階段の写真などが次々と映し出された。右端に座る男性裁判員はあごに手を当てながら、手元にあるモニターを真剣な表情で見つめる。

検察官は続いて、事件発覚後の27、28の両日に市橋被告方で行われた現場検証について説明する。モニターには玄関の内側部分の写真が映し出され、バスケットボール、ゴミ箱、ゴミ袋などが置かれているのが分かる。

検察官「ゴミ箱の中には粘着テープ13片、結束バンド5本、コンドーム1個、コンドームの袋2個が入っていました」

これらのものを広げておき、撮影した写真がモニターに映し出される。

検察官「13片のテープは無造作に丸められていました。結束バンド5本のうち、切断された2本は切り口が一致しました。コンドーム1個は内側についていた精子のDNA型が市橋被告のものと一致しました。外側にはリンゼイさんの細胞がついていました」

写真に映し出されたコンドームが強姦に使われていたことが明らかになった。母親のジュリアさんは顔をゆがめてうつむき、両目に手を当てた。手はしばらく震えていた。検察側はさらに現場にあった別のゴミ袋について、内容物を読み上げていく。

検察官「パーカー、リンゼイさんの頭髪、リンゼイさんのコート、リンゼイさんのカーディガン、粘着テープ」

さらにこれらを広げ、撮影した写真がモニターに映される。写真にはリンゼイさんの焦げ茶色の髪が大量に映し出される。写真を通じて、犯行が凄惨(せいさん)だったことが分かり、ジュリアさんは目に涙をためながら、うつむいた。隣に座る父親のウィリアムさんはジュリアさんの肩に手を置いて気遣う様子で、2人は小声で言葉を交わしていた。

市橋被告はうつむき、表情は伺えない。検察側の証拠調べがさらに続く。

⇒(7)廊下から台所に尿の痕跡 壁には血液も付着 検察側立証続く