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(3)裁判長説諭「前向きに生きることが亜澄さんに報いる」…被告は軽くうなずき

殺害時の責任能力についての判決文の読み上げが終わり、量刑の理由について秋葉康弘裁判長が読み上げる。

裁判長「今回の件は殺人の点について懲役7年としました。7年と考えた理由をこれから述べます」

裁判長はじっと動かずに座っている勇貴被告を見つめ、話し始めた。

裁判長「人1人の命を奪った結果はあまりに重たい」

語尾を強めて語る裁判長。厳しくも優しく勇貴被告を諭しているようだ。

裁判長「亜澄さんはまだ20歳と若く、まだこの世に生きたかったであろう。人生に悩んだ時はありのままの自分を受け入れて欲しいと頼りこそすれ、まさか兄に殺されるとは思いもよらなかったであろう。強固な殺意に基づいており、責任は極めて重大である」

裁判長は命の重さを勇貴被告に説明している。微動だにしない勇貴被告は正面を見据えているが顔色はうかがえない。

裁判長「他方、生まれながらアスペルガー障害に罹患(りかん)しながら、両親にも気づかれずに成長し、解離性(同一性)障害に罹患するまでに至った…善悪の判断に従って行動する能力がかなり減退した状態での犯行であった」

裁判長は、誰にも障害を理解されずに成長した勇貴被告について、一定の“同情”を示す。さらに亜澄さんの行動についても言及した。

裁判長「亜澄さんは反抗挑戦性障害であり、家出をしたり家族に不和をもたらしていた。挑発的な言動が犯行のきっかけになったことは否定できない」

勇貴被告に有利となる事情について次々と読み上げる裁判長。一方で一部無罪となり、主張が退けられた検察側では、検事の1人が憮然(ぶぜん)とした表情で目を閉じ、椅子の背もたれに背をかけたままじっと聞き入っている。

裁判長「(勇貴被告に)罪を償う意思もあり、両親や兄も寛大な処分を望んでいる。(犯行当時)21歳と若いなど酌むべき事情も認められる。(判決は)こうした事情を考慮しました」

判決文の読み上げが終了。秋葉裁判長は一息置いて、勇貴被告を見つめながら説諭を始めた。

裁判長「今回の裁判の中で、あなたが社会で暮らしていくために、気をつけなければいけないことがあると、あなた自身も分かったと思います」

「被告」でなく「あなた」と語りかける裁判長。勇貴被告はじっと聞き入ったまま動かない。

裁判長「他方、1人の社会人として立派に生きていく力もある。だから、今日それなりの責任を果たしてもらおうと(量刑を)考えました。責任を果たして社会に戻り、どこに気をつければよいか専門家からアドバイスをもらい、それを踏まえて生活する必要があります」

裁判長は勇貴被告を見つめ、障害と向き合った上で社会の中で強く生きなければいけない、と諭す。

裁判長「亜澄さんに対する謝罪(の気持ち)は持ち続けてもらいたい。気をつけるべきことは気をつけ、前向きに生きていってほしい。そうすることが亜澄さんの死に報いていくと思います」

説諭に軽くうなずく勇貴被告。裁判長は控訴することができることを告げ、午後1時58分に傍聴人を法廷から退席させた。勇貴被告は着席したまま正面を見据えていたが、その後の様子はうかがえなかった。

アスペルガー障害、解離性同一性障害…今回の事件を機に初めて自分の障害に気づいたであろう勇貴被告。障害を告げられ自分自身についての理解を深めたのだろうか。判決を受け、大事な妹を自分の手で殺めた代償の大きさに気づいていると思いたいが…。

⇒判決要旨(1)鑑定は「信頼できる」検察官調書は「不自然」