(4)「意味なさない!」検察の証拠に怒り出す裁判長…どうなる「責任能力」の認定」
秋葉康弘裁判長は引き続き、勇貴被告に犯行前後の記憶に関する質問を重ねる。勇貴被告は相変わらず両手をしっかり握って膝の上に置き、裁判長をまっすぐ見つめて話している。裁判長は手元の資料を確認しながら質問をしている。
裁判長「(犯行前に)亜澄さんの通っている学校について、亜澄さんと会話をしたことを警察官に話したのは覚えていますか」
勇貴被告「やはり、はっきりとは覚えておりません」
裁判長「亜澄さんのメモ帳に書いてあったことについてやり取りしたことを、警察官に話したことは覚えていますか」
勇貴被告「やはり、はっきりとは覚えておりません」
裁判長「先ほど聞いたことですが、亜澄さんが『女優を目指している』ということを、警察官に話したことは覚えていますか」
勇貴被告の供述を元に作成された冒頭陳述によると、亜澄さんは勇貴被告に木刀で殴られた後、「私には女優になってスターになる夢がある。勇君が歯医者になるのはパパとママのまねじゃないか」と言われ、亜澄さんに対する怒りが再び爆発したとされる。
勇貴被告「やはり、はっきりとは覚えておりません」
裁判長「先ほど聞いたことですが、『歯医者になるのはパパとママのまねじゃないか』という会話をしたことを、警察官に話した記憶はありますか」
勇貴被告「…そうですね、話したかもしれません。いえ、話しただろうと思います」
裁判長「警察に何を話したか、記憶にないのですか」
勇貴被告「(逮捕)当日はとても眠かったのでどんな話をしたのかは覚えておりません」
裁判長「ウソをついたという記憶はありますか」
勇貴被告「ウソは言っておりません」
裁判長「警察に着いたとき侮辱されるようなことを言われた、と話しましたね。その影響はあったのですか」
勇貴被告「話したことではないところで影響を与えたと考えております」
供述が理解できないのか、天井を見上げる裁判長。この日、何度も見られた光景だ。
裁判長「どういう影響を与えたのですか」
勇貴被告「僕の取った行動でしょうか。それらに影響を与えたと考えております」
裁判長「どういうふうにですか」
勇貴被告「『知らぬ存ぜぬ』を通しました」
裁判長「それに対して警察官はどういう反応がありましたか」
勇貴被告「…そうですね、やはりはっきりとは覚えておりません」
裁判長は手元の資料に目を落とし、手を額に当て黙考している。
裁判長「この日、メモのようなものを書いたとされますが、その時はどんな気持ちでしたか」
勇貴被告「とにかく眠かったと思います」
裁判長「その時の警察官との関係はどうでしたか」
勇貴被告「ちょっとよく思いだせません」
裁判長「対立するような関係に変わっていたのですか」
勇貴被告「はっきりとは覚えておりません」
ここで裁判所からの質問が終了。秋葉裁判長は最後まで釈然としない表情だ。
裁判長の指示に従い被告人席に戻る勇貴被告。じっと正面を見ているが表情はない。
裁判長「検察官、(裁判所に提出した)証拠は撤回しますか」
検察官「維持します」
裁判長「今の被告人質問を踏まえた上で証拠を維持する理由はどこにあるのですか」
検察官「従前、取り調べの…」
裁判長「それでは分からない。何を立証しようとしているのですか!」
秋葉裁判長が突然、声を荒らげた。検察官とのやり取りから推察する限り、裁判所が撤回を求めたのは勇貴被告の供述に関する証拠のようだ。
問題になっているこれらの証拠が、具体的に何なのかは不明だ。
検察官「被告の記憶が詳細であったことを…」
裁判長「それでは意味をなさない。立証趣旨が明らかでありません」
秋葉裁判長の“叱責”が続く。検察官2人が耳打ちで何かを相談している。
検察官「前回公判で出た鑑定の正確性を判断…」
裁判長「そんな説明では、裁判所としては判断できません」
検察官「内容としては、被告が(逮捕された)1月4日当時に話した会話の具体的内容を書いています」
裁判長「どの書面にどのようなことが書いてあるのですか」
精神鑑定を実施した鑑定人は前回公判で勇貴被告の人格を2重構造と断定し、「被告の事件の記憶はよみがえらない」などと述べた。遺体解体は「別人格」の犯行とも述べている。
勇貴被告の責任能力を認定させたい立場の検察官は、犯行内容を語る詳細な供述を示し、別人格による犯行でないことを立証しようとしているのか。それに対し、裁判長は勇貴被告が語ったとされる内容に疑問を持っているのだろうか。
検察官「内容としては、2人で交わされた会話の内容や、亜澄さんを木刀で殴打した回数、(首を締めた)タオルを持っていった理由や浴槽に亜澄さんを沈めたときの着衣です。その後、血が流れている廊下を掃除した内容。遺体を切断した順番、遺体の処理や(切断に使った)ノコギリや包丁の処分方法。さらに被告は先ほどからの供述で『(取り調べ時は)眠かった』と話しているが、被告が書いた書面は几帳面な文字で埋められており…」
提出した証拠書面の内容を羅列する検察官。秋葉裁判長はややうんざりした表情で聞いている。