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(3)取調室で「お前は人間のクズ」…“頭の片隅の情報”探る法廷

犯行時の状況について、秋葉康弘裁判長の質問が続く。勇貴被告のいう「頭の片隅の情報」は記憶なのか−。秋葉裁判長は語りかけるように尋ねる。

裁判長「あなた自身は亜澄さんを殺したと思っているのですか?」

勇貴被告「おっしゃる通りです。思っています」

裁判長「そう思うようになった1番最初はいつですか?」

勇貴被告「(犯行翌日の平成18年)12月31日の朝起きてすぐだと思います」

裁判長「どうしてそう思うのですか?」

勇貴被告「部屋の中央に(遺体が入った)バケツがあり、袋に包まれていたが見えるようになっていた」

裁判長「(バケツの)中の状況を見て、ということですか」

勇貴被告「はい」

裁判長「前日(犯行日の12月30日)に何をしたのか思い起こせましたか?」

勇貴被告「はっきりと覚えておりません」

裁判長「12月31日に亜澄さんを殺したと思ったというが、その時にあった記憶は今よりも詳しい? それとも今と同じくらい?」

勇貴被告「今と同じ程度というのが正しいと思います」

裁判長「1月4日に逮捕され、その日に自らどんなことがあったかメモを書いた記憶は?」

勇貴被告「あります」

裁判長「何通くらい?」

勇貴被告「ちょっとはっきりしません」

裁判長「逮捕された時間は覚えていますか?」

勇貴被告「逮捕という表現が連れて行かれた時のことなのか…」

裁判長「警察に着いた時間は?」

勇貴被告「時計がないので何とも言えないですが、夜中だったと」

裁判長「1月4日の朝が明ける前ですか?」

勇貴被告「おっしゃる通りです」

勇貴被告は両手を膝の上に置き微動だにしない。同年代の男性にしては珍しい丁寧すぎるほどの言葉遣いは、犯行の凄惨さとの間に奇妙なギャップを感じさせる。

裁判長「(犯行の様子などを記した)メモを書いた時間は?」

勇貴被告「時計がないのではっきりしません」

裁判長「警察に行ってから、どんなことがあったか記憶に残っていることは?」

勇貴被告「名誉に関わることかと思いますが、『お前は人間のクズだ』『お前の父は腑抜けだ』と言われました」

名誉に関するといいながらも、怒りを露わにせずに淡々と同じ調子の話し方で続ける。

裁判長「それは警察に入ってからすぐ?」

勇貴被告「はい。すぐです」

裁判長「場所は?」

勇貴被告「取調室です」

裁判長「取調室には長い時間いましたか?」

勇貴被告「だいぶ長い時間いたと思います」

裁判長「その日(逮捕された1月4日)は朝食を食べた?」

勇貴被告「いいえ」

裁判長「昼食は?」

勇貴被告「そうですね。昼かどうか分かりませんが、頂いたと思います」

裁判長「昼食までの間はおおむねどれくらい(時間が経過していた)?」

勇貴被告「時計がないので、何とも申し上げられません」

裁判長「2、3時間とか半日とかでも」

勇貴被告「できません」

時間の感覚に異様に正確さを求める性格なのか、それとも記憶がないのか判然としない。

裁判長「最初に食事するまでは取調室にいたのですか?」

勇貴被告「はい」

裁判長「メモのようなものを書いたのは食事までの間ですか?」

勇貴被告「その時、眠かったので覚えていません」

裁判長「メモはどうして書いたのですか」

勇貴被告「恐らく『書け』と言われたからだと思います」

裁判長「『恐らく』といったのは(書いた)記憶がない?」

勇貴被告「はい。おっしゃる通りです」

裁判長「メモには記憶していることだけを書いたのですか?」

勇貴被告「違うことも多少、もしくは多々書いたと思います」

裁判長「記憶にないことを書いたのはどうして?」

勇貴被告「そうですね…。ちょっと分かりません」

裁判長「記憶にないことを書いたと分かるのはどうして?」

勇貴被告「弁護士先生からメモを預かっていて。ですからそのように申し上げました」

裁判長「後から見て記憶と違うことが書いてあると分かったのですか?」

勇貴被告「おっしゃる通りです」

裁判長「逮捕されてから、事件のあった日にあなたと亜澄さんでどういうことがあったか聞かれましたか?」

勇貴被告「頭の片隅にあった情報をお話ししたと思います」

裁判長「頭の片隅にあった情報はどんな内容ですか?」

勇貴被告「現在、供述調書で書かれている動機になる一言。そのような感じでしょうか」

逮捕後の記憶について、勇貴被告に一つひとつ裁判長が尋ねる。

裁判長「その時、話したことで、亜澄さんから『勉強しないから成績が悪いというが本当は分からないよね』と言われたことは」

勇貴被告「(亜澄さんから)そう言われたように思うと、そのように話しました」

裁判長「あなたが木刀で殴ったことに対して亜澄さんが文句を言っているということは?」

勇貴被告「はっきり記憶していません」

裁判長「あなた自身が亜澄さんに対し、『お父さん、お母さんに生意気な態度を取っている』と言ったことは?」

勇貴被告「はっきり覚えておりません」

裁判長「亜澄さんから『手の指が折れてんだよ、足をどけろ』と言われたようなことは?」

勇貴被告「はっきりと覚えておりません」

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