(8)祐輔さんの母「歌織は悪魔」
検察側は、さらに祐輔さんの母親の供述調書を読み続けた。
検察官「刑事から『バラバラの遺体が、事前に私から採取したDNAと50%ほど一致した』といわれた。『本当の所はどうなんですか? (完全に)一致したのか?』と訪ねると、刑事は『まあ、個人的な感想では8割方は息子さんと一致したと思う。しかし、父親のDNAも採取して確認するからまだはっきりとはいえない』といわれた。刑事は気を使っているな、という印象だった」
「夫は、刑事からの電話を横で聞いていて、突然、『うおぉー』と泣き叫んで2階に駆け上がっていった。私も希望の糸が断ち切れ、頭は真っ白。祐輔との日々が走馬燈のように浮かんだ。『祐輔は何をしたの? 歌織はなんてひどいことをしてくれたの? 』と同じことを何度も心の中で叫んだ。その後、歌織が警察に逮捕され、祐輔を殺したことを認めたと知った。大事な祐輔がこんなことになったという悔しさと、祐輔がこの世にいない悲しさ。なぜバラバラにされなければいけなかったのか」
歌織被告は、またハンカチで鼻を押さえ、うつむいた。
検察官「歌織が祐輔の頭を切断し、町田市の公園に運んだと報道で知った。町田市に祐輔の頭を運ぶ歌織を想像し、憎しみで体がはじけそうになった。そんなことを普通の感覚でできるのか? 歌織は悪魔なのか? こんなに人のことを憎めるのかと言うくらい、歌織が憎かった。テレビでは『祐輔が暴力夫で、歌織はやむを得ず犯行に及んだ』みたいな感じで報道されていたが、うちの祐輔は暴力夫ではない。そういった報道が真実のように流されていたので傷ついた」
祐輔さんの母親の供述は、改めて息子への思いにも触れる。
検察官「祐輔が結婚したことで、やっと一人前になったと、親の最低限の責任を果たしたとひと安心していた。私の友人には孫の話をする人もいるが、これからは聞いているだけでなく、その会話に入れるのではないかと。祐輔に子供ができることを楽しみにしていた」
「私は祐輔が東京で暮らし、好きな仕事をして好きな人と暮らし、たまに孫を見せに北九州に帰ってきてくれればいいと思っていた。どこの家にもある幸せを味わいたかった。どうして殺されたのが祐輔じゃないといけないのか。被害者がよその人ならばいいわけではないが、納得できない」
「歌織は夫を殺してバラバラにして捨てた。とても普通の人にはできない。歌織は悪魔だ。そんな人は社会で暮らす権利はない。死刑にしてほしいが、それでは一瞬の苦しみでおしまいだ。そんなものではなく、一生苦しみ続けてほしい。私たちは祐輔を一生背負っていかなければならない。歌織を死ぬまで刑務所に閉じこめて、罪を償わせてほしい。刑務所から戻り、祐輔のことを忘れ、自分の人生を歩むことなど許さない」
祐輔さんの母親の訴えを、歌織被告はうなだれながら聞いていた。