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(4)「暴行と謝罪で逃げられず」食い違う弁護側冒陳

弁護側の冒頭陳述は続く。弁護人は祐輔さんの歌織被告に対する振る舞いは「DVの典型」と主張した。

弁護人「祐輔さんは酒を飲んだりして帰宅も遅く、歌織被告は風呂にも入れなかった。また、化粧をしていると、外出して浮気をしているのではないかと疑い、歌織被告は化粧をすることもできなかった。祐輔さんは浮気をしていないか疑い、追及し、歌織被告の外出先でも領収書を取っておくように命令。携帯の履歴を確認したりして疑った。暴力も振るわれて常に恐れ、緊張した状態だった」

ここで弁護士は一呼吸おいて、語気を強めて語り出す。

弁護人「『逃げればいいのでは』と考える人はDVに無理解だ。祐輔さんはDVをしないときは全くの別人で、歌織被告に謝罪した。歌織被告が出ていこうとすると追いかけて連れ戻し、謝罪する。だから歌織被告も信じようと思った、そしてまた暴力。これは、DVの典型だ」

歌織被告と父親の関係についても言及する。

弁護人「歌織被告は父親と確執があり、実家にだけは戻れないと考えていた。しかし平成16年、祐輔さんの暴力に耐えきれず、一度、実家に。しかし父親と衝突して『実家にも逃げることができない』とまた家に戻った。平成17年6月27日深夜に、歌織被告は祐輔さんから顔面を殴られ、『てめぇ、逃げられると思っているのか、今日こそ、ぶっ殺してやる』といわれ、裸足で隣の病院に逃げた。鼻骨骨折して警察に保護され、シェルターに避難した」

祐輔さんとの結婚生活を振り返る弁護士の冒頭陳述を聞きながら当時を思いだしたのか、歌織被告はハンカチで顔を抑え、何度もおえつを漏らした。

弁護人「シェルターから戻ると、さらに祐輔さんの束縛が強くなった。離婚にも応じてくれず、歌織被告は祐輔さんから名前を呼ばれただけで恐怖を感じるようになっていった。歌織は暴力に使われそうなものを隠し、いつでも逃げられるように携帯を持って生活していた」

「その後、歌織被告は、離婚するために、自宅にICレコーダーを置いて、祐輔さんが浮気相手と会話する決定的な会話を録音。証拠をつかんだと思い、その日は『早く帰宅して』と祐輔さんに電話した。しかし、同時に殺されるのではと怖くなった」

「結局、祐輔さんは午前4時ごろに帰宅。寝ている祐輔さんを見て、殺されるのではと緊張し、もう逃げられないと思い、自分の行動をコントロールできず、ワインの瓶で祐輔さんの頭を殴打した。周囲は血で染まり動かない祐輔さんを見ても、まだ怖くて、早く祐輔さんを消し去りたいと考え、運搬を計画。しかし、運ぶことができず、損壊した。これが事件の真相だ」

弁護士は、警察、検察批判も行う。

弁護人「われわれの主張が、検察の冒頭陳述となぜ異なるか。それは、取り調べに問題があったから。本来、真実を解明するのは検察の義務。しかし、警察、検察には本件がなぜ起こったか耳を傾けることがなかった。検察官の1人は歌織被告を『汚い奴が、囲い者が』と侮辱。歌織被告の話に耳を傾けず、真実知る努力を放棄した」

⇒(5)泣き続ける歌織被告