(2)「彩香ちゃん事件は殺人、落下事故防止の配慮ない」
判決は、彩香ちゃん殺害事件での「殺意」の検討に移った。1審の秋田地裁は、彩香ちゃんを転落させた際には鈴香被告に殺意があり、犯行は「殺人」だったという判断を示しているが、弁護側は、彩香ちゃんが怖がって抱きつこうとした際に、鈴香被告が手を反射的に振り払ったことによる転落だとして過失致死を主張してきた。一方の検察側も、欄干に上るよう命じた時点で、すでに確定的な殺意があったとして1審の判断と異なる見解を示しており、控訴審の判断が注目された。
裁判長「証拠から認められる客観的な状況や、鈴香被告の公判での供述によると、彩香ちゃんが大沢橋から藤琴川に落下したことについては、単なる事故ではなく、殺人であることが強く疑われる次のような事実がある」
いきなり結論が出た。控訴審でも、彩香ちゃんの死は検察の主張通り殺人だと認定したことになる。続いて、その理由を列挙した。
裁判長「ア。鈴香被告は大沢橋の上で『帰らない』とだだをこねていた彩香ちゃんに対し、怖がらせて帰らそうとするなら『帰らないなら欄干に乗せるよ』とでも言えばいいのに、きつい口調で『欄干に乗らないなら帰るよ』と、乗せるのが目的と解釈せざるを得ない言葉をかけ、極めて危険な場所に座らせた」
「イ。彩香ちゃんが欄干に上る間、危ないからやめろとも言わず、かえって腰を支えるなどして手伝った。上った後は、体に背後から腕を回して抱きかかえるような、落下事故を防ごうとする配慮を全くしていない」
「ウ。彩香ちゃんは『お母さん、怖い』と言って体をひねって振り返りながら、背後の鈴香被告に抱きつこうとした。その瞬間は彩香ちゃんの体重が預けられるような状況で、体を川の方に押し返すには相当な力が必要だったと考えられる」
理由はエ、オと続く。落下後も彩香ちゃんの安否を気遣う行動を取っていないことなどが指摘された。
さらに「殺人」の根拠として、裁判長は捜査段階での取り調べ内容に触れる。
裁判長「豪憲君殺害の容疑で再逮捕された平成18年6月30日には、『(彩香ちゃんが転落した)同年4月9日午後4時20分から午後7時までの間の行動は、辛くなって思い出すことができない』と述べた」
「7月5日には、『彩香をあやめたことに思い当たることがあるが、詳しいことは思い出せない』と述べ、翌6日には『彩香を手にかけてしまった。押して川に落とした』とするに至った。自白に任意性があることはさっき述べた通りで、十分信用性もある」
こう述べ、弁護人の「殺意はなかった」とする主張を退けた。次に、検察側が控訴理由の1つとしている、「欄干に乗せた時点ですでに殺意があったか否か」の検討に移った。
裁判長「1審判決の、鈴香被告が彩香ちゃんを大沢橋の欄干に上るように命じた時点で殺意があったことを否定するような認定や説明は誤りというほかない」
検察側の主張を認めたかのようだが、この後、判決は「だが」と続けた。
裁判長「1審判決でも彩香ちゃん事件について、殺意をもって体を押して落下させ、殺害したと認定、説明しているので、犯罪事実自体の認定に誤りはないから、刑事訴訟法382条の事実の誤認には当たらない」
説明は分かりづらいが、1審判決でも彩香ちゃんを川に落とした時点で殺意があったことを認めているので、どこで殺意が生じたかはさほど重要ではないとする判断のようだ。判決では「量刑上大きな違いはない」とする言及もあった。