(1)「検察官の言いなりの調書に応じたとは認められない」弁護側主張退ける
秋田県藤里町の連続児童殺害事件で殺人と死体遺棄の罪に問われ、1審で無期懲役判決を受けた無職、畠山鈴香被告(36)の控訴審判決公判が25日午前10時すぎ、仙台高裁秋田支部(竹花俊徳裁判長)で開廷した。検察側は死刑を求刑するなか、一審の量刑に対し、高裁がどのような判断が下すのかが注目を集め、26席の一般傍聴券を求めて開廷前には近くの体育館に1751人が並んだ。
みぞおちのあたりまで伸びた髪を三つ編み姿で現れた鈴香被告。上下黒のスーツに白のブラウス。右のポケットには水色のハンカチが見える。開廷直前、深々と一礼をし青白い顔色で法廷に入った。冒頭、裁判長が名前を確認すると両手を体の横にぴったりと付け、「…はい」とかすれた声で答えた。
傍聴席では米山豪憲君=当時(7)=の母・真智子さんが、白い花のリボンが添えられた遺影を抱えていた。父・勝弘さん(42)は両手を組みうつむき加減で座っていた。
裁判長「判決を述べます。控訴を棄却する−」
開廷直後、やや早口で判決を述べる裁判長。その瞬間、慌しく法廷を出ていく報道陣とは対照的に、直立不動で判決を聞いていた鈴香被告は軽くうなずくだけだった。
一方、控訴審の証人尋問や意見陳述書で、鈴香被告の死刑判決を求めていた豪憲君の両親は控訴棄却に唇をかみ締め、眉をしかめた。
裁判長「長くなるから座ってください」
鈴香被告は大きく一度うなずき、証言台すぐ後ろの席に着いた。竹花裁判長は判決理由をしゃがれた声で述べ始めた。
裁判長「1審判決で認定された事実と、弁護人および検察官の控訴の趣旨について述べる」
裁判長は1審で認定された事件の経緯を説明。争点となってきた弁護側の控訴理由に関する判断を示していった。
裁判長「弁護人は、(1審判決には)彩香ちゃん=当時(9)=殺害事件について、任意性を欠く調書を採用した1審は法令違反があるとする。また、彩香ちゃんへの殺意を認定した点▽彩香ちゃんが転落した直後の健忘を一部しか認めなかった点▽豪憲君事件で鈴香被告の心神耗弱を認めず、完全責任能力を認めた点−が不当なので、無期懲役判決は重すぎると主張する」
「任意性を欠く調書」とは、取り調べ当時の不当な圧力などにより、鈴香被告の意に沿わない調書が作成されていたという意味だ。裁判長はひとまず判断を保留し、同様にもう一方の検察側の控訴理由を説明していく。
裁判長「検察官は、(1審判決が)彩香ちゃんへの確定的殺意の発生時期を橋の欄干に乗せた時点であることを認めなかった点▽豪憲君事件について、彩香ちゃんを殺害した記憶がすぐに思い出せない状態だったと認定した点▽豪憲君事件の動機・目的は警察、マスコミ、近隣住民への憎悪と、彩香ちゃん殺害の疑いをそらすことにあるのに、殺意が生まれた時期を自宅に招き入れた後と認定した点−から、無期懲役判決は軽すぎると主張する」
続いて裁判長は、弁護側の主張する供述調書の任意性についてどう判断したかの説明を始めた。
裁判長「弁護人は取り調べを担当した検察官が、鈴香被告に(豪憲君の)遺体写真を見せたことや、鈴香被告の体に接触したことをあげて、その直後に促された自白は任意性がないと主張するが、それぞれ経緯や状況は1審判決が説明している通りであり、正当と認められる」
裁判長はその判断の補足として、個々の具体事例の状況を読み上げ、任意性をめぐる論点の総括に入った。
裁判長「鈴香被告が検察官の言いなりの調書作成に応じたとは認められない。鈴香被告自身も、1審で精神的圧迫があったと述べていない」
裁判長は弁護側の主張を全面的に退けた。
裁判長「検察官、警察官調書の任意性は認めることができる。弁護人の(自白の任意性を問う)控訴理由は理由がない」