(4)検事詰問に「どうしたらいい!」と逆ギレの父
歌織被告の父親に対し、夫婦生活が崩壊する間際の行動についての質問が続く。
検察官「証人は歌織被告から、祐輔さんから暴力を受けていると聞いたことがあったか?」
証人「(平成18年12月)14日はお金を持っていなくなったと聞き、本当に最後だなと…」
検察官「証人は祐輔さんの実家に電話をした?」
証人「はい」
検察官「どんな話をした?」
証人「結婚当初の話をした」
検察官「具体的にどんな話?」
証人「無理やり人の家に転がり込んできておいて、一体どういうつもりだ、と」
検察官「もっとひどいことは言わなかったか?」
証人「検事さんに指摘をされたが、『泥棒猫』などと言った覚えはない」
検察官「あなたは怒り心頭だったのではないの? ひどい言葉を言わなかったか?」
証人「そんなことはない」
質問は父娘関係に移った。
検察官「証人が歌織被告との関係がうまくいかなかったのはどうしてと考える?」
証人「娘と? (少し考えて)厳しくいろんなことを言ったり、娘の話を聞いてあげなかったり…」
歌織被告の表情の変化や挙動はうかがえない。質問は祐輔さんの遺族への対応に移る。
検察官「祐輔さんの両親に手紙を書いたのはいつ?」
証人「19年11月ごろ」
検察官「事件から1年近くたっている。なぜこんなに遅くなった?」
証人「どういったことを話したらいいか…。私もいろいろと右往左往していた」
検察官「だから1年近く何もしなかったわけ? そんなことで相手方に気持ちが伝わると思うの?」
証人「申し訳ございません」
検察官「謝罪、償いについて何も考えていないということか?」
証人「(倒産した)会社も整理の段階で、自分のことも何もできないので…」
検察官「自分の生活も大事でしょうが…」
証人「(さえぎって)大事とは思ってない」
検察官「あなたのいう償いは経済的なことなのか? あなたが逆の立場になったときのことを想像しなさい。相手に何を…」
証人「どうにもならない。どうしたらいいか教えてください!」
矢継ぎ早で挑発的な検察側の質問に対し、ついに声を荒らげる証人。検察側もかなりいらだっている。
検察官「ならば『私にできることはない』って話をなぜしない?」
証人「今までの思いもあって、そこまで考えが行かなかった。経済的な話だけではない」
検察官「証人が娘さんに言いたいことは?」
証人「本当に望まない結婚をして、こういう形になって…。人間らしいい生活もできなくて、何がなんだか分からない」
表情を変えずに前を見据える歌織被告。質問の検事が交代した。
検察官「祐輔さんから歌織被告への暴力がひどくて、証人は無理やり家に連れて帰りたかったけど、目黒警察から『自殺してはいけないから…』などとアドバイスを受けたという話だけど、まず、誰を無理やり連れて帰るの?」
証人「娘です」
検察官「無理やりというのは?」
証人「大人ですから」
検察官「大人ですから、何?」
考え込んで言葉に詰まる証人。河本雅也裁判長が割って入る。
裁判長「答えてください。証人ですから黙る権利はありません」
検察官「歌織被告は実家に帰ろうという気持ちがなかったのでは?」
証人「そんなことはない」
検察官「なぜ無理やりということになる?」
証人「(答えず)」
検察官「遺族に対する償いのことは考えられないの? あなたの頭の中で償いとは?」
証人「それは時期をみて…」
検察官「(さえぎって)遺族に対してどういうことをしたい? しなければならない?」
証人「気持ちの上では十分考えているが、それを表せない」
検察官「お金なのか?」
証人「いえ、気持ちです」
検察官「気持ちを伝えるのにどうすればいい?」
証人「時間がほしい。今は身動きできない」
いらだつ検察側の口調はさらに厳しいものに。
検察官「祐輔さんのご両親に電話する、手紙を書く、会いに行く、これもできないのか?」
証人「…今のところはできない」
検察官「なぜ?」
証人「生活できないから」
検察官「電話、手紙、会う、単純なことだが、これらになぜ気がつかない?」
証人「右往左往していてそこまで気がつかなかった」
検察官「事件から1年、娘さんが逮捕されてから1年、あなたこの1年何をしていたの?」
証人「(答えず)」
検察官「祐輔さんがいなくなった後、奥さんに祐輔さんの実家に電話かけさせた。それで、あなたが結婚当初の話をして、『祐輔さんが無理やり転がり込んできて、揚げ句の果てこういう結果になって』と言ったが、『こういう結果』とはどういうこと?」
証人「(祐輔さんが)いなくなったこと」
検察官「生活費を10万円持って?」
証人「はい」
検察官「(祐輔さんの)会社にはなんと電話した?」
証人「本人が会社に来ているか知らないか、と」
検察官「会社に何か要求しなかったか?」
証人「私が? していない」
検察官「『なんでこんな男を雇ってるんだ、クビにしろ』と言わなかったか?」
証人「言ってない」
検察官「結局、あなたの娘が祐輔さんを殺したことについてどう思う?」
証人「(プハーっと息を吐いて)たまらない思いです」
検察官「たまらない思いとは?」
証人「なんでこんなことになったんだ? 今まで被害者だったのが加害者になってしまって…」