(2)「娘に『離婚サンプル』送った」
弁護側の質問に、当初ははきはき答えていた歌織被告の父親。だが、徐々に涙混じりになり、声も小さくなっていく。被告の方は父親を見ようとはしない。
弁護人「平成17年12月24日、都内のホテルで歌織被告と会った?」
証人「はい」
弁護人「父と母、歌織被告と祐輔さんの4人か?」
証人「はい」
弁護人「歌織被告は祐輔さんとの結婚をどう話していた?」
証人「『とにかく別れたい』と」
弁護人「祐輔さんの前で父、母にそう話したのか?」
証人「はい」
弁護人「なぜ別れたいと?」
証人「とにかく暴力がひどすぎるということだった」
弁護人「祐輔さんは何と?」
証人「『申し訳ありません。今後気をつけます。でも歌織とは別れたくない』と」
弁護人「離婚には応じてもらった?」
証人「応じてもらえなかった」
検察側はこれまで、歌織被告が『良い条件で離婚をしようと考えていた』と主張している。対する弁護側は『被告はすぐにでも離婚したがっていたが、祐輔さんが認めてくれなかった』と反論。父親から、その主張に沿った証言を導き出したいようだ。
弁護人「そこであなたは何かを作った?」
証人「はい。『離婚サンプル』を作った」
弁護人「『離婚サンプル』とは?」
証人「新潟地裁からもらった離婚の申立書などのこと」
弁護人「どんな内容を書いた?」
証人「暴力がひどいとか、小さいこと、いろんなことがあったと書いた。そのほかに手紙を添えて(歌織被告にアドバイスとして)送った」
弁護人「暴力とは過去にそうだったということか?」
証人「過去も現在も」
弁護人「続いているということ?」
証人「はい」
弁護人「それを歌織被告に送った?」
証人「はい」
弁護人「いつごろ?」
証人「(平成18年)4月ごろ」
弁護人「送ったものはどうなった?」
証人「本人(歌織被告)のところには届かなかったようだ。(書類を)切られて、『どうしてこんなものを?』と暴力を受けたそうだ」
ここで弁護側は証人に1枚の紙を見せる。何かをコピーしたようで、全体が灰色になっている。
弁護人「これはその『離婚サンプル』か?」
証人「はい」
弁護人「切られたのになぜ残っているのか?」
証人「これは私の手元にあった原稿だ」
弁護人「歌織被告にはコピーして送った?」
証人「そうだ」
弁護人「平成18年11月、母親が上京したとき、歌織被告から何か預かったか?」
証人「公正証書や写真」
弁護人「写真を見た?」
証人「見た。これが女性のものとは見えないような青あざ…考えもつかなかった」
弁護人「平成18年12月に歌織被告から母親に電話があったか?」
証人「はい」
弁護人「直接話したか?」
証人「いいえ」
弁護人「話の内容は母親から聞いた?」
証人「はい」
弁護人「どんな内容だった?」
証人「正式に離婚できるということだった」
弁護人「祐輔さんについてどのような話が?」
証人「今度新しく結婚する人との会話とか何とかを持っていると…」
証言台に立った父親は、当時のことを思い出したのか、大きく鼻をすすった。
弁護人「平成18年12月13日、あなたは1人で上京し、歌織被告と会ったか?」
証人「はい」
弁護人「あなた1人で上京すると事前に歌織被告に伝えていたか?」
証人「いいえ。伝えたら会ってもらえないと」
弁護人「待ち合わせ場所や時間は?」
証人「女房が伝えた」
弁護人「歌織被告はどんな様子だったか?」
証人「ものすごい顔色が悪く、真っ白だった。口数も少なかった」
この前日、歌織被告は祐輔さんを殺害していた。しかし、この時点で父親は、そのことを知る由もない。
弁護人「録音した証拠について話した?」
証人「はい。『持っているなら渡しなさい』と」
弁護人「歌織被告は渡してくれたか?」
証人「いいえ。パソコン上に入っているから無理だと」
弁護人「あなたは何と言った?」
証人「きちんとした形で慰謝料をもらって、早く離婚しなさいと」
弁護人「離婚は祐輔さんから言い出させなさい、ということか?」
証人「はい。その方がスムーズに行くと思った。今まで(祐輔さんは)『離婚しない』『しない』と言っていたから」
弁護人「離婚の責任についてはどう考えていた?」
弁護側の質問の意味がわからなかったのか、歌織被告の父は『すみません』と聞き返し、弁護側は再度質問した。
証人「責任を取ってもらいなさいと」
弁護人「慰謝料についてか?」
証人「もちろんそれを含めてだ」
弁護人「2人でどこに行ったのか?」
証人「不動産屋だ。(新宿の)ホテルで会って、タクシーで青山へ」
弁護人「新宿から青山へ? 誰かが知っている不動産屋だったのか?」
証人「はい。娘だったと思う」
弁護人「歌織被告の引っ越し先を探した?」
証人「そうだ」
弁護人「物件は見つかったか?」
証人「1件あった」
弁護人「契約したのか?」
証人「したが、娘も私も無職ということでできなかった」
弁護人「この日のうちにあなたは新潟に帰った?」
証人「はい」
弁護人「別れるとき何かしたか?」
証人「雨が降っていたもので、『帰りはタクシーで帰りなさい』と2万円渡した」
弁護人「翌14日朝、歌織被告から母親に電話があったか?」
証人「はい」
弁護人「どんな用件か?」
証人「すぐ3万円送ってくれと」
弁護人「どういったことに使うと?」
証人「私が電話を代わったときだと思うが、『祐輔さんが生活費を持っていなくなった』というので、『え、またか』という感じだった。祐輔さんの実家に女房が電話をかけた」
弁護人「前日に2万円を渡しているのにどうして必要だと?」
弁護側の質問に対して、河本雅也裁判長が『質問が重複しているから混乱しているのでは?』と声をかけた。
弁護人「祐輔さんが10万円の生活費を持って出て行ったと歌織被告は言っていたのか?」
証人「はい」
自身に関する質問が続いているのに、歌織被告はわれ関せずといった様子で、左手で髪の毛に手をやったままうつむいている。証言台の父は時折、せき込んだり鼻をすすったりしているが、被告は父親の様子には興味がないようだ。