(3)「娘と話したくない」とケータイ壊した父
歌織被告の父親への尋問を通じて、親子のぎくしゃくした関係が次第にあらわになっていく。父親の証言を、被告はうつむき加減で表情を変えずに聞いていた。
弁護人「今後について聞きたい。今のあなたの生活はどういう状況か?」
証人「厚生年金とアルバイトで暮らしている」
弁護人「前にやっていた自営業はどうなった?」
証人「平成18年の4月に倒産した」
弁護人「借金はあるのか?」
証人「会社の債務保証、個人の債務保証、そのほか、いろいろ入れて2500万くらいある」
弁護人「以前は1軒家だったはずだが、どうなった?」
証人「おそらく競売になると思う。今は知人や親類の家で世話になっている」
弁護人「生活はどうか?」
証人「…きつい」
弁護人「今後、祐輔さんの遺族に関してどうしたいのか?」
証人「…公判中であり、会社の整理とかもあるので考えていない。(語気を強めて)本当に、申し訳ない、だが自由が利かない。いつかは、いろいろ考えていきたいと思っている」
弁護人「具体的な償いはどうか?」
証人「できるだけがんばって償いたい。でも今は何ともいえない」
弁護人「なぜ償うのか?」
証人「同じ子を持つ親。しかも一時は三橋の姓を名乗った子供だという思いもある」
弁護人「今、改めて、証人と歌織被告の関係をどう思うのか?」
証人「正直…まだ自分で娘のことを、これからのことを考えられない。どうしようという心情。気持ちが決まっていない」
弁護人「歌織被告への処分は不明だが。今後は被告とどうしていきたい?」
証人「ただただ、待つとしか考えが及ばない」
ここで弁護側が質問を終え、検察側の反対尋問に移った。男性検事が早口で質問を浴びせる。
検察官「平成16年2月に被告が犬を連れて実家に帰ってきた。そのとき、今後の祐輔さんとの関係について証人はどう話した?」
証人「ただ、別れてほしいと」
検察官「具体的な今後の生活については?」
証人「そこまで考えなかった」
検察官「被告の先行きは考えなかったのか?」
証人「はい。けがをみて、まずは休ませたいと。その後のことは考えていない」
検察官「その間、証人は被告の携帯電話を使えなくしたことがあったでしょう?」
証人「もう、(娘と)話をしたくないと…」
検察官「電源を壊したのはあなたか?」
証人「はい」
検察官は証人の近くに寄り、証人が書いたという離婚の申立書を示す。
検察官「この離婚の申立書は証人が書いた?」
証人「はい、18年2月ごろに書いた」
検察官「何で書いたのか?」
証人「とにかく早く離婚を進めたかった」
検察官「祐輔さんの行動についていろいろ書いてあるのは、誰かから聞いたことか?」
証人「(被告などから)聞いたのと、目黒警察で聞いたものとを含めて書いた」
検察官「都内のホテルで被告と祐輔さんと会って、離婚してほしいと証人は言ったのか?」
証人「もちろん。でも、祐輔さんが歌織じゃないと嫌だといって、歌織の手を引っ張った」
検察官「いや、離婚を考えたんでしょ? なんで実行しなかったのか」
証人「無理やり連れて行っても自殺とか、問題が起きると。とにかく時間をかけて話し合ってと、目黒警察に指導されていた」
検察官「それで不幸なことが起きたわけだが、事件の原因についてはどう思う?」
証人「どちらも追いつめられて、行く先がなくなったのだと思う」
検察官「お互い?」
証人「はい…、はい(うなずく)」
歌織被告は証人を一瞬見やり、またうつむいた。
検察官「18年12月13日に被告と2人で会ったか?」
証人「はい、別れるときが決まったと言っていた」
検察官「慰謝料のことは?」
証人「それは私から話した。向こうは新しい彼女と結婚するから、12月何日かにきちっと離婚するということだった」
検察官「18年12月中旬から下旬にかけて…」
証人「ゆっくり話してください」
証人はまくしたてる検察側に、少し語気を強めていった。
検察官「はい。そのときに祐輔さんの実家に電話したか?」
証人「女房に電話させた。またか、大騒ぎかと」
検察官「またか?」
証人「警察沙汰に3度くらいなっている。またか、と。福岡の祐輔さんの実家と会社にかけさせた」