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(3)ウソの届け出、なりすましメール…「明らかな犯行隠蔽」と断罪

法廷には判決を読み上げる河本雅也裁判長の声だけが響く。判決を聞く歌織被告は前方を見つめたままで、身じろぎすらしない。裁判長は、犯行前後の状況について認定した事実を述べていく。

裁判長「被告は殺害行為の直前、友人と応対したが、そこに特に異常さは認められない。その後、被告は短期精神病性障害を発症して精神の障害を有することになるが、犯行動機の内容は、被告の当時の状況からすると自然で理解できる」

「被害者の頭部には合計8カ所の挫傷が見られるが、ほかにはない。被告の攻撃は頭部に集中していることが認められ、被告は犯行時、一定の運動能力と清明な意識を持っていたことが認められる。犯行時の記憶について、被告はワインの瓶の口の方を持って、肩まで振り上げて振り下ろし、被害者の頭部を数回殴ったという。その信憑(しんぴょう)性に疑いを差し挟む余地はない」

続いて裁判長は死体損壊・遺棄時、犯行後の隠蔽(いんぺい)工作にについて触れる。

「被害者の血が流れるのを防ぐため、土やノコギリなど必要な用具を購入して準備を整えた。被告はノコギリを使って死体損壊行為を行い、上半身はごみ袋に入れた状態で道路脇の植え込みに捨て、下半身は台車に乗せて、一見空き家に見える民家の敷地内に捨て、右手と左腕は管理人がごみを仕分けする自宅マンションのゴミ捨て場とは別のゴミ捨て場で家庭ゴミと一緒に捨て、犯行の発覚を防ぐための合理的な行動をしている」

「被告は警察に被害者の捜索願を出した際、被害者の胸に手術痕があると言ったり、ノコギリを実家に送ったりしている。さらに被害者の安否を気遣う被害者の父に対し、被害者になりすまして『迷惑かけてすみません。もう少しだけ時間を下さい。祐輔』という内容のメールを送っている。これは明らかな犯行隠蔽行為である」

裁判長は、歌織被告が明らかな犯行の隠蔽工作をしていた事実を認定した。こうした歌織被告の具体的な犯行を述べた後、責任能力の判断に移った。

「被告は短期精神病性障害を発症し、幻視や幻聴があり、相当に強い情動もあった。その事実は認めるが、幻視や幻聴の内容は被告の祖母や読んでいた雑誌などに関係するもので、被告の人格からの乖離(かいり)はない。また、(幻視・幻聴が)被告に被害者殺害を指示するようなものではなく、犯行動機の形成にまったく関係がない」

⇒(4)「地獄のような夫婦生活」裁判長も同情 「立ち直って」と説諭