(2)「幻覚」見ても完全責任能力あり 歌織被告は裁判長に視線
裁判長「もう1つの争点だった責任能力について説明します」
いよいよ、最大の争点となっていた歌織被告の責任能力についての判断に移った。裁判所は精神状態をどう判断したのか。法廷の注目が集まる。
「裁判所は、歌織被告に完全責任能力があると判断しました。以下、説明します」
裁判所は、「犯行時は心神喪失」との鑑定結果とは全く違う結論を導き出した。なぜこの結論に至ったのか、その論理展開が気になる。
「責任能力は個々の事案ごとに、鑑定結果だけでなく、関係証拠から認められる被告の犯行当時の精神状態、犯行態様、犯行動機、犯行前後の行動などの事情を総合的に検証し、被告に刑事責任に負わせるべきかという観点から裁判所が行う法的判断である」
裁判長はまず、このように一般論としての責任能力の判断の仕方を説明。さらに続ける。
「精神科医の鑑定結果は、専門的知見に基づく参考意見である。裁判所は精神障害の有無・程度の認定において、鑑定に合理性がある限り十分に尊重する。しかし、それは精神医学の専門家としての分析結果であり、責任能力については前記の総合的検討によって決される。その意味で責任能力の判断は鑑定結果に拘束されない」
要するに、「責任能力の認定に当たって鑑定意見は尊重するが、最終判断は証拠に基づいて裁判所が行う」ということだ。25日には最高裁で、精神鑑定の評価について「否定する合理的な事情がない限り十分に尊重すべき」との初判断が示されており、その内容を意識していることも感じさせる。
続いて裁判長は、今回の事件に関する鑑定結果を検討した部分の読み上げを始めると告げた。まずは、犯行直前に歌織被告が「短期精神病性障害を発症し、一定の意識障害を伴う幻視、幻聴を伴う夢幻様状態に陥った。幻視の一部として祐輔さんを見ており、適切に行動を制御することが難しい状態にあった」とする鑑定結果をおさらいした。
「検察官は、歌織被告がそれまで誰にも幻覚のことを言っていなかったのに、鑑定人らの問診時に供述したのは、鑑定人らが誘導的に質問したからだと主張する」
ここで裁判長は、「しかし」と述べた。
「一(いち)…矛盾のない幻覚体験を虚偽に語るには、高度に専門的な知識が必要である。…三(さん)…幻覚の内容は祖母や祐輔さんに関連する具体的なもので、鑑定人の誘導により供述したとは考えにくい…」
4点の理由を挙げた後、裁判長はこう結論づけた。
「以上から、本件犯行当時、歌織被告に先述の幻覚症状が生じていたと認められ、そのほかに精神障害に関する鑑定結果の信用性に疑いを差し挟む余地はない」
完全責任能力を認定したものの、裁判長は鑑定結果を否定したわけでなく、犯行時などに歌織被告が幻覚を見ていたこと自体ははっきりと認めた。いすに座って裁判長の方を向いている歌織被告は、ほとんど動かない。判決を聞き入っているようにも見える。