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(9)「私VSだんな側の人間」

正午を回ったが、弁護側による証拠の読み上げが続いた。次々に明かされていくのは、事件前の結婚生活で、三橋歌織被告が書いたとみられる手帳、メモ類の内容だ。暴力をふるっていたとされる夫の祐輔さんに対し、殺意につながる鬱憤を蓄積していくまでの過程が列挙されていく。

弁護人「まさに地獄の生活に身を置くだけ。もう決心しよう」

「夜、おなかがすいたとうるさいので、みそ汁を作った」

弁護側によるメモ類の読み上げは続く。歌織被告が、夫婦間のトラブルが自分の思う通りに周囲に伝わっていないことに、孤立感を深めていた印象を与える記述もあった。

弁護人「(祐輔さんが)勝手に知人に連絡し、一方的に都合のいい言い分を、事実と違う形で伝えていた」

「一見優しいが、信じられないくらい二重人格」

「以前は『私 VS だんな』だったが、今は『私 VS だんな側の人間』で包囲されるような状況。いかに有利に別れられるか、必死に自己防衛している」

泥沼の夫婦生活を書いた、自身のものとみられるメモ類が読み上げられている間、歌織被告は、目をつぶって下を向いていた。

その後、河本雅也裁判長が協議のため休廷することを告げると、歌織被告は顔に手を当て、髪をかき上げたりして落ち着かない。裁判長らが退席すると、右隣の女性刑務官に何かを尋ね、刑務官が答えると、目を閉じて再開を待った。

裁判長「再開します」

数分後に再び現れた裁判長は、検察側と弁護側を近くに呼んだ。歌織被告はその様子をしばらく見ていたが、再び目を閉じたまま待った。相談が終わると、裁判長は証人尋問の際に、必要に応じて証人を匿名にしたり、目隠しして見えなくなるようにする措置を取ることを決めた。さらに、公判前整理手続きで弁護側、検察側双方から請求があった精神鑑定の実施を認めたことを告げた。

12時25分、12月25日の次回公判のスケジュールを説明して審理は終わった。たびたび泣いていた被告の目は赤く、遠目からでも腫れぼったくなっていた。手錠と腰縄をつけられ退席しようとする歌織被告は、傍聴席にいた祐輔さんの両親と目を合わせようとはしなかったが、父が遺影を突きつけるようにすると、一瞬気づいたように振り返った。

⇒第2回公判