(1)歌織被告に「愛人」結婚前から継続」
東京地裁104号法廷。傍聴席から向かって左側には、2メートル四方程度のスクリーンがはられている。冒頭陳述の内容を傍聴人に分かりやすく説明するための補足資料などを映し出すためだ。事件の遺族らとみられる関係者らが着席すると、9時57分、三橋歌織被告が法廷に入ってきた。
傍聴席からの視線を集中して受ける歌織被告は、無地の水色の素っ気無いトレーナーに、灰色のスウェットパンツ姿。肩の下までまっすぐに下ろした髪の毛が印象的だ。
河本雅也裁判長「2分前ですが、開廷してよろしいですか?」
午前9時58分、予定の10時より2分早く開廷が告げられた。
被告「三橋歌織です…」
冒頭手続きのため裁判長の前に立つよう指示された歌織被告は、一歩ずつ踏みしめるようにゆっくりと移動した。小さい声で名前や住所などの質問に答えていく。検察側が起訴状を読み上げる。
裁判長「言いたいことはありますか」
被告「…ありません」
歌織被告が起訴事実を認めた一方、弁護側は注文をつけた。
弁護人「事実関係は争わないが、犯行時に心神喪失か耗弱の状態にあった」
裁判長「もう少し詳しく」
弁護人「えー、長期のDV(配偶者間暴力)でPTSDの状態となり、犯行時に出現したと…」
続けて検察側の冒頭陳述に移る。スクリーンに映像が映されたほか、紙にプリントされている歌織被告に関する「年表」が大きく掲示された。
検察官「検察側が証拠により解明しようとする事実は以下の通りです」
片手に棒を持った女性検察官が、ゆっくりと説明していく。裁判員制度を意識した『ですます調』の説明だ。
検察官「ケンカが絶えず、憎しみを深めていき、離婚を考えるようになった。離婚するにしても、自分だけがみじめな生活を送るのは嫌だと考え…経済的に有利な条件で離婚したいという思いを強く抱いていました」
事案の概要の説明が始まると、歌織被告が鼻をすすり上げる音が天井の高い法廷に響いた。歌織被告の生い立ちから犯行に至るまでを説明していくと、ハンカチを目に当てる場面がたびたびみられるようになってきた。
続いて人物関係図がプロジェクターに映し出される。歌織被告の不適切な男性関係が明かされる。
検察官「被告には、結婚前から愛人関係にあったA男さんという男性がいます」
ひとしきり泣いて落ち着いたのか、歌織被告はぼんやりと聞いている。