(6)「美保やお母さんが刺されたカラー写真をしっかり見て」要望する父親
東京都港区で昨年8月、耳かき店店員の江尻美保さん=当時(21)=と祖母の鈴木芳江さん=同(78)=を殺害したとして、殺人などの罪に問われている元会社員、林貢二被告(42)の裁判員裁判は、女性の代理人による美保さんの父親の意見書の読み上げが続いている。
代理人「この事件のことを、しっかり見てください。法廷では、美保やお母さんが刺されたときの写真は白黒で提出されていると思います。ですが、評議に入られましたら、皆様はカラーの写真をごらんになることができます。大変おつらいかと存じますが、どうかしっかり見ていただけますようにお願い申しあげます」
「この法廷に来ることができなかった妻と、長男の気持ちをおくみとりいただきたいです。また、勝手ながら、この法廷で、自分自身で直接読み上げることができなかった私の心情もくんでいただければ幸いに存じます」
裁判員裁判では初めてとなる死刑判決が下されるか、注目を集めている今回の裁判員裁判。美保さんの父親は裁判員にためらいをなくすよう促し、意見陳述を締めくくった。
代理人「最後に。私は今でも、美保と同年代の女性を見かけると、美保を思いだして、涙が出てきます。どうか、犯人のことを死刑に処してください」
「裁判員の皆様におかれましては、さまざまな思い、迷いがあるかもしれません。しかし、犯罪被害者の遺族からみましたら、裁判員裁判であれそうでない裁判であれ、当然死刑に処せられるべき犯人については、死刑に処していただきたいのです。どうか、裁判員の皆様、裁判官の皆様、適正な判断を示してください」
手紙の読み上げが終わると、若園敦雄裁判長が「裁判所で少し聞きたいことがあります」と言い、「短い時間ですからね」と林被告に証言台に座るよう促した。
裁判長「先週、裁判員から芳江さん、美保さんが倒れた状態で、手に包丁を持っているときの気持ちを聞きましたが、覚えていますか」
一呼吸置いてから裁判長が続けた。
裁判長「その時の感触を思いだして、何を思いますか」
被告「毎日事件のことを考えています。あのときのことを毎日思いだしています」
裁判長「具体的に聞かせてください」
被告「とてもひどいことをしてしまったと、そう思います」
林被告は小さい声で淡々と答えていく。
裁判長「ほかには? 特にありませんか」
被告「…あのときのことを毎日思いだして、お二人が受けた痛みと恐怖を、自分で想像しています」
裁判長「それでいいですか」
被告「はい」
納得いく返答が得られないのか、不満げな表情を浮かべる若園裁判長。続いて、向かって左から3番目の男性裁判員が質問する。
裁判員「あなたのお母さんは自宅を売ったりして、(被害者遺族に対し)あなたの代わりに償うことになると思います。自分の母親が今回のように殺されたら、どう思いますか」
被告「とても悲しい思いをすると思います」
裁判長から「もう少しどうですか」と促され、男性裁判員が質問を続ける。
裁判員「被害者遺族の意見陳述を聞いて、率直にどう思いますか」
被告「おわびしようもないほど、ひどいことをしました。申し訳ありません…」
男性裁判員は林被告がさらに言葉を継ぐのをしばらく待っていたが、林被告は下を向き黙り込む。続いて、一番右の別の男性裁判員が質問する。
裁判員「もう一度やり直せるとしたら、何をやり直したいですか」
被告「…誰一人悲しい思いをしないよう、涙を流すことがないようにしたいです」
ここで、若園裁判長が質問を引き継いだ。
裁判長「今の質問は、やり直せるのであれば、いつのどの場面で、どうやり直したいのか、ということなんですが。答えられますか」
被告「(出入り禁止を告げられ)店に行けなくなった昨年4月5日から。当時は考えられませんでしたが、その後のすべてを反省しています。身勝手な行為ですから」
裁判長「美保さんから『もう無理です』とメールを受けてから、(来店することなど)全部あきらめればよかった、ということですか」
被告「その前からも、私の勝手な思いでした」
裁判長「その前も含めて、やり直したいと」
被告「はい」
若園裁判長が「一点気になるから聞きます」と、被告に最後の質問をする。
裁判長「遺族あての手紙を見ると、法廷では(遺族への謝罪が)興味本位にとられる、言っていいのか迷う、とありましたが」
被告「興味本位ということではなく、(法廷で)話すことで、遺族の悲しみを深くさせるのではないかと思いました」
裁判長「法廷で話していないことは、ありますか」
被告「それはありません」
午後の日程について、検察側の論告求刑と、被害者参加制度に基づく被害者遺族の求刑についての意見陳述を1時間半程度行い、30分程度の休廷を挟み1時間程度の弁護側の最終弁論を行うことを確認し、若園裁判長が休廷を告げた。午後1時半から再開する。