(2)「男の子を産んで幸せになりたい」…絶たれた夢、声詰まらせる友人
法廷左右の両壁面に設置された大型モニターには、星島貴徳被告に殺害された東城瑠理香さんと大学時代の友人が留学先のカナダで旅行したときに撮影した写真が映し出されている。2人とも楽しそうな笑顔。重苦しい法廷の雰囲気が少しだけ軽くなったように感じる。
東城さんの相模女子大学時代の同級生で、一緒にカナダのマニトバ州立大学に留学した友人に対する検察官の証人尋問が続く。星島被告はモニターに映し出された写真に目を向けることもなく、これまでの公判と同じように、下を向いてじっとしている。
検察官「相模女子大で学生を留学させる目的は」
証人「英語力を向上させることです」
検察官「資格を取ることは目的とされていましたか」
証人「されていませんでした」
検察官「瑠理香さんは何か資格を取ろうとしていましたか」
証人「英語で英語を教える資格のコースを取りたいと考えていました」
検察官「それはどのような資格ですか」
証人「英語を母国語としない人たちに、英語で英語を教える資格です」
検察官「英語ではCTESL(シーテッセル)というのですね」
証人「はい」
瑠理香さんは、このコースを受講したいと熱心に教授に訴え、相模女子大からの留学生として初めて、CTESLのコースを受講することになったという。
検察官「なぜ瑠理香さんは、このコースを受講できるようになったのでしょう」
証人「『瑠理香ならできる』と許可したみたいです」
検察官「瑠理香さんは熱心に勉強していましたか」
証人「はい」
検察官「あなたはこのコースを取ろうとは思わなかったのですか」
証人「はい。私には難しすぎると思いました」
検察官「コースを取得するとき、瑠理香さんは何か言っていましたか」
証人「No pain,No gain(ノーペイン、ノーゲイン)」
検察官「苦労なくして、得られるものはないと」
証人「はい」
モニターにCTESLの証明証書の写真が映し出される。証書を持ってほほえむ瑠理香さん。その目線の先には大きな夢があったはずだった。質問の内容は留学中の東城さんの日常生活に移る。
検察官「あなたは留学中にいやなことがあるとどうしていましたか」
証人「瑠理香さんに話していました」
検察官「どこで」
証人「(瑠理香さんが住んでいた)学生寮で」
検察官「どのようにして話を聞いてくれましたか」
証人「黙って話を聞いてくれたり、ハグ(抱きしめる)してくれたり…」
検察官「最終的にはどちらが英語ができるようになりましたか」
証人「瑠理香です」
検察官「自分の決めたことは最後までやり抜くタイプなんですね」
証人「はい」
検察官「瑠理香さんは人に流されるタイプではなかった」
証人「はい」
検察官「瑠理香さんは誰とでも仲良く話していた。相手に合わせて話題を変えることができるタイプだったのですね」
証人「はい」
検察官「瑠理香さんはクラスで人気がありましたか」
証人「はい」
検察官「それは男性からですか」
証人「いいえ。女性からも人気がありました」
検察官「どんな人気ですか」
証人「美人で頭がいいって」
平成17年4月、瑠理香さんと友人は日本に帰国。共に相模女子大のキャンパスにもどる。
検察官「瑠理香さんはアルバイトをしていましたね」
証人「はい。出版社でアルバイトをしたり、美術関係のアルバイトをしていました」
検察官「就職活動はしていましたか」
証人「はい。大手信販会社に就職が決まっていました」
美術関係の仕事を目指していた瑠理香さんは、大手信販会社への就職に違和感があったようだ。結局は大手信販会社に就職せず、美術関係のアルバイトを続けることにしたという。検察官の質問は、東城さんと友人の日本での日常生活に移る。
検察官「あなたは瑠理香さんとピクニックに行くこともあった?」
証人「夏に代々木公園に行きました」
検察官「その時、お弁当は誰がつくりましたか」
証人「瑠理香がつくってくれました」
サンドイッチ、サラダ、枝豆…がメニュー。瑠理香さんは事件当日の朝もお弁当をつくっていたという。
検察官「東城さんはそのとき、何か言っていましたか?」
証人「『料理がおいしいところにだんなは帰ってくる』と言っていました」
検察官「瑠理香さんは結婚を意識していましたか」
証人「結婚願望はありました。『男の子を産んで幸せになりたい』と言っていました…」
友人は涙で声を詰まらせた。
大型モニターに華やかなはかま姿の女子学生を写した写真が映し出された。
検察官「この写真に映っている5人は誰ですか」
証人「各科の成績優秀者です」
検察官「英語英米文学科の成績優秀者は誰ですか」
証人「瑠理香です」
科の首席として卒業した東城さん。続いてはかま姿でスピーチをする東城さんの姿が映し出された。
検察官「表彰された瑠理香さんは何と言っていましたか」
証人「たくさんの友人に支えられて大学生活を過ごすことができました、と…」