(15)「怖がりなので、安全には人一倍気を使ってきた」…中高時代の東城さん
星島貴徳被告の卑劣な犯行の前に、大切な娘を奪われてしまった東城瑠理香さんの母親への質問が続く。幼少期からの成長をたどるように質問が進み、傍聴席からみて向かって右前方に座った遺族のほうからはすすり泣きも聞こえる。
検察官「冬には何をしましたか」
証人「スキーに行きました。(東城さんの)叔母の家族と一緒でした」
大型モニターには、白いウエアでスキーをする東城さんの写真が映し出された。両手をあげ、カメラにポーズを取るなど楽しそうだ。
検察官「スキー場での様子はどうでしたか」
証人「みんなと一緒に遊んで、スキーがいやになると雪合戦や雪だるまを作って遊んでいました。(そのときも)親の元は離れませんでした」
検察官「小学生のとき、児童に稲作を体験させることがありましたか」
証人「はい。瑠理香は積極的にやっていました。男の子などはいやになるとさぼっていました」
検察官「瑠理香さんはどうして稲の世話に打ち込めたと思いますか」
証人「稲を育てて食べたいという目標があったからです。目標があるとがむしゃらに突き進んでいきました」
検察官「瑠理香さんは平成9年3月に小学校を卒業しましたか」
証人「はい」
大型モニターには、卒業式直後に、同じ町内の同級生5人と写真におさまる東城さんの姿が映し出された。5人のうち女性は東城さんだけ。真新しい中学校の制服に身を包み、緊張した表情ちを見せる。
検察官「みなさん制服を着ているのはなぜですか」
証人「小学校を卒業するとき、中学校の制服を着るように小学校に言われているのです」
東城さんは9年4月に中学校に入学すると、テニス部に入り、没頭するようになったという。勉強の成績も「上でした」と母親。このころから、得意科目は英語で、さらに自分の将来についてビジョンを描いていたという。
検察官「この当時から留学は考えていましたか」
証人「その当時かは分かりませんが、留学は考えていたみたいです」
検察官「瑠理香さんは本が好きだったようですが」
証人「はい。小説や歴史物を図書館から借りてきて、分厚いものも読んでいました」
検察官「大学を卒業するときに、図書館司書の資格を取ったのですね」
証人「はい」
検察官「中学生のころから図書館司書になりたいといっていましたか」
証人「中学かは分かりませんが、資格を取りたいとは聞いていました」
検察官「ピアノが上手だったようですね」
証人「はい」
検察官「3姉妹はみんなピアノを習っていたのですか」
証人「いいえ。瑠理香だけでした」
検察官「それはなぜですか」
証人「瑠理香が小さいときにどうしても習いたいといっていたからです。一生懸命にやっていました」
中学校では音楽会での伴奏まで任され、昼夜を問わず練習に明け暮れていたという。自慢の娘だったことが、母親の答から伝わってくる。
検察官「瑠理香さんは勉強や運動ができたようですが、他の人にひけらかすことはありましたか」
証人「ぜんぜんありませんでした」
検察官「瑠理香さんは友人がたくさんいましたか」
証人「はい。瑠理香はいつも人の気持ちを理解してあげて、的確な意見をいってあげられていました。(好かれたのは)そういう部分がだと思います」
検察官「高校に進学したころ、3姉妹は仲がよかったですか」
証人「はい。とても」
大型モニターに出された写真には、笑顔でパーティーをする3姉妹の姿。喜びに満ちた表情の東城さんを、星島被告は一向に見ようとはせず、青白い顔をわずかに赤く染めて下を向き続けている。
検察官「高校に進学してから、瑠理香さんにボーイフレンドはできましたか」
証人「はい」
検察官「瑠理香さんはボーイフレンドを家に連れてきましたか」
証人「はい。しょっちゅう連れてきました」
検察官「瑠理香さんの帰りが遅くなることはありましたか」
証人「はい」
検察官「夜道を1人で歩くこともありましたか」
証人「いいえ。怖がりなので」
検察官「安全には人一倍気をつけていたということですね」
証人「はい」
事件現場となったマンションも、オートロックなどセキュリティーが高いからと選んだという東城さん。安全を常に重視してきた娘の無念を、母親は代弁する。続いて、高校の制服姿の東城さんが大型モニターに映し出された。胸あたりまでまっすぐ伸びたきれいな黒髪が印象的だ。
検察官「瑠理香さんは髪の毛を大切にしていましたか」
証人「はい。毎日手入れをして、人にさわらせることはありませんでした。前髪は自分で切っていて、美容院にも行かず自分で手入れしていました」
常に前向きに、何事にも積極的に取り組む東城さんと、親への偏向した恨みを口にし、屈折した犯行に手を染めた星島被告とは対照的だ。その後、検察側は大学へと進学し、留学に夢をはせる東城さんの当時の心情について質問を向けていく。