(9)両親への思い聞かれ、「殺す」…やけどの跡で逆恨み
昼休みを含めて3回目となる休憩を挟み、法廷が再開された。ゆっくりとした足取りで証言席に向かう星島貴徳被告は、手錠を外されても呆然(ぼうぜん)とした表情だ。検察官は、星島被告がコンプレックスを持っていたという足のやけどの跡について質問する。
検察官「足にやけどをしたことはありますか」
星島被告「はい」
検察官「いつ、どうやってやけどを負ったか記憶にありますか」
星島被告「ないです」
検察官「どうやってやけどをしたと聞いていますか」
星島被告「風呂のふたに乗って落ちて両足をやけどしたと…」
検察官「沸かしている風呂の中に落ちたと聞いているのですか」
星島被告「はい」
星島被告は午前中に比べて一段と小声で話している。
検察官「小学生のころ、制服はありましたか」
星島被告「はい」
検察官「ズボンはどういうものですか」
星島被告「短いものです」
検察官「半ズボンをはくとやけどの跡がみえましたか」
星島被告「はい」
検察官「どう思いましたか」
星島被告「嫌でした」
検察官「友達からからかわれたことはありましたか」
星島被告「はい」
検察官「どんな風にですか」
星島被告「分かりません」
検察官「両親に相談しましたか」
星島被告「はい」
検察官「結果、どうなりましたか」
星島被告「怒られたと思います」
検察官「叱られたのですか」
星島被告「はい」
検察官「『気にするな』と言われたのですか」
星島被告「何と言ったかは思い出せません」
星島被告は両足に負ったやけどを友人にからかわれ、相談した両親にも叱られたという。検察官は、人間形成に関わる幼少期の星島被告の人付き合いについて尋ねていく。
検察官「子供のころ、友人は多かったですか」
星島被告「いいえ」
検察官「どうして多くなかったと思いますか?」
星島被告「(足のやけどの跡を)気持ち悪がられているので、僕から避けていました」
検察官「からかわれるのが怖くて避けていたのですか」
星島被告「はい」
検察官「今、人付き合いは悪いと思いますか」
星島被告「両方だと思います」
検察官「良い点もあると?」
星島被告「仕事に関して必要なときは」
検察官「個人的に友人付き合いをしてこなかったのは、人から傷つけられるのが怖かったからですか」
星島被告「はい」
やけどの跡をからかわれた恐怖感から、友人をつくらないようにしていたという星島被告。孤独な少年期の姿が浮かぶ。
検察官「両親に対して、事件の前にはどう思っていましたか」
星島被告「殺そうと」
検察官「『殺してやりたいほど憎い』ということですか」
星島被告「殺すです!」
星島被告は法廷に響くような大きな声を張り上げた。両親へのそこまでの憎しみは何だったのか。
検察官「『いつかは殺そう』と思っていたのは、どうしてですか」
星島被告「私の足をかばってくれなくて…」
やけどに関する恨みは両親に向けられていた。だが、それが東城瑠理香さんを殺害することとは全く整合性がない。
検察官「やけどの跡がなければ人付き合いも違っていたと思いますか」
星島被告「と思います」
検察官「女性とも交際していましたか」
星島被告「と思います」
検察官「結婚もできたと思いますか」
星島被告「かもしれません。断言できませんが」
検察官「両親への恨みは今もありますか」
星島被告「消えていないかもしれません」
検察官「両親がわざとやけどをさせた訳ではないですが?」
星島被告「そう思うこともあります」
検察官「1歳10カ月だったあなた(星島被告)が、風呂のふたに乗っかり落ちたと聞いていますが?」
星島被告「そう言われました。が、それさえ本当か疑うこともあります。(両親が)突き落としたのではないかと」
これまでコンプレックスや性行為などで数々の強い妄想を持っていることが法廷で明らかになっている星島被告だが、やけどの原因についても妄想を持っているのだろうか。
検察官「それは本来、恨むべき者ではない者を恨む逆恨みでは?」
星島被告「そうだと思います」
検察官は続いて、少年期から仕事に就いてからの人間関係について尋ねていく。
検察官「高校を出て就職したのは15年くらい前ですか」
星島被告「はい」
検察官「上京して就職し、両親と会ったのは何回くらいですか」
星島被告「2回くらいです」
検察官「最後はいつですか」
星島被告「分かりません」
検察官「10年以上前ということですか」
星島被告「はい」
検察官「連絡は取っていないのですか」
星島被告「はい」
やけどの跡の恨みが残っているのだろうか、疎遠な親子関係が浮かぶ。続いて検察官は星島被告の性格について聞き出していく。
検察官「性格の中に人を見下すところがありますか」
星島被告「人を見下していました。自分は特別な人だと思うことで、足のやけどの跡(のコンプレックス)にも耐えるようにしていました」
歪んだ人間観を持っていた星島被告。検察官は周囲の人たちを星島被告がどう見ていたかを具体的に聞き出していく。
検察官「同僚が食費やたばこ代を倹約しているのを見てどう思いましたか」
星島被告「ほんの少しの金も切りつめて生活する人生は可哀想だと見下していました。でも、どこかで家族を羨ましかったり、『妬み』か分からないですが、そういう気持ちもあったと思います。人の幸せを素直に喜べない人間だと…」
星島被告は独白するように語り出した。
検察官「金を貯めたり彼女を作ろうと努力している人をどう思っていましたか」
星島被告「馬鹿にしていました」
検察官「電車で隣に人が座るとどう思いましたか」
星島被告「うっとうしく思いました」
検察官「町で同じ方向に歩く人がいるとどう思いましたか」
星島被告「うっとうしく思いました。同じ人間でも自分はやけどの跡があるし気持ち悪がられます。『自分は他人と同じでない変わった人間だ』『特別な人間だ』と思うようになり、そうして生きてきました。でも結局、耐えられませんでした」
検察官「そうして事件を起こしたわけですね」
星島被告「そうです。仕事でも肩身が狭くなって…どんな手段を使ってでも、すがれるようなものが欲しくてしょうがなかったのです」
いつから人を見下すようになったのだろうか。
検察官「人を見下すことで自分を守ろうとしたのはいつ頃からですか」
星島被告「人より給料が良くなり、仕事ができるようになってからが一番大きいです」
検察官「給料が50万円になったのは何年前からですか」
星島被告「5年くらい前からです」
検察官「その頃からタクシーで出勤するようになったのですか」
星島被告「3、4年…。3年前からだと思います。○○銀行(実名の都市銀行名)に勤務していた時からですから。毎回、5000円を使ってました。電車よりも早く通勤できたのでやめようと思いませんでした」
犯行を犯した後も守りたかったという贅沢な暮らしというのは、歪んだ人間観から来ていたようだ。