(7)「ポケットに詰め、コンビニのゴミ箱に捨てた」
休憩時間が終了し、午後1時半、被告人質問が再開した。黒いトレーナーに黒いズボン姿の星島貴徳被告は上気した顔を見せながら、ゆっくり法廷に入った。相変わらず、うつろな表情だ。
当初の予定では、午後の被告人質問は弁護人に切り替わる予定だったが、東城瑠理香さんの遺体を損壊・遺棄した状況などについて、検察側の被告人質問が続けられる。
検察官「平成20年4月25日金曜日の午前中の状況を聞きます。遺体を緑色の手提げカバンで持ち出したとのことですが、まだ骨が2つくらい残っていましたね」
星島被告「はい」
検察官「持ち出して捨てるつもりでしたか」
星島被告「いいえ。カバンに入れるには大きいので、小さくしようかと考えていました」
検察官「それ以外に考えたことは」
星島被告「…(数秒沈黙)。わかりません」
検察官「他の方法を試したのでは」
星島被告「29日は、ズボンの前の右側のポケットに入れて捨てました」
検察官「どの骨を?」
星島被告「鎖骨2本だったと思います」
検察官「どこに捨てたのですか」
星島被告「そばのコンビニのゴミ箱です」
星島被告の自宅最寄り駅のJR京葉線潮見駅への途中のコンビニの写真が映し出される。空き缶用など3種類のゴミ箱が設置されている。
検察官「ゴミ箱に捨てた後に気になったことは」
星島被告「分かりません」
検察官「分別回収作業でゴミの中身を見られるのが気がかりだったのですね」
星島被告「はい」
検察官「(コンビニに捨てたのは)4月29日に1度試しただけですね」
星島被告「はい」
検察官「なぜ、この方法を繰り返さなかったのですか」
星島被告「(発覚が)怖かったからです」
検察官「マンションのゴミ置き場に捨てたことは」
星島被告「はい」
検察官「警察がチェックしているかどうかは分かりませんでしたね」
星島被告「はい」
検察官「(自宅から)5月1日に持ち出すことはできましたか」
星島被告「はい」
検察官「(骨の残りは)918号から全部持ち出して、なくなったのですか」
星島被告「はい」
検察官「どう思いましたか」
星島被告「『やっとなくなった』と安心しました。東城さんのことも家族のことも何にも考えず、逃げきれると、自分のことだけを考えていました」
法廷では小声で簡潔に話すことが多い星島被告だが、ここでは語気を強め、聞かれてもいないのに「自分のことだけ考えていた」と付け加えた。
検察官「5月1日は昼から出勤していましたね。そのことを警察が怪しんでいるかどうかをチェックしようと思いましたか」
星島被告「(翌日に)同じ方法でバリケードの前を通りましたが、チェックされませんでした」
検察官は、事件翌月の5月のカレンダーを検察官の席に置いた。裁判員制度を意識して、傍聴人にも分かりやすくしているようだ。
検察官「5月3日以降について聞きます。3日は何をしていましたか」
星島被告「部屋の掃除です」
大型モニターには星島被告の自宅の写真が映し出された。
検察官「廊下の途中から先の床はコルクマットですね。血で汚れていましたか」
星島被告「はい」
検察官「切り刻んだ肉片を持って行くときに、コルクマットはどうしましたか」
星島被告「1枚30センチ四方ぐらいですが、外して一枚一枚を丁寧に洗いました」
検察官「浴室や配水管はどうしましたか」
星島被告「洗剤で(洗った)」
大型モニターは洗剤の写真に切り替わった。配水管内部の細菌類を除菌する業務用の洗浄剤で、配水管のつまりや悪臭にも効果があるという。配水管に骨片や肉片などが残らないよう証拠隠滅作業の総仕上げを行ったとみられる。
検察官「どこで買ったのですか」
星島被告「門前仲町です。1日か2日だったと思います」
検察官「勤め帰りにですか」
星島被告「はい」
検察官「強力な洗剤を使ったのはなぜですか」
星島被告「奇麗にするためです」
証拠隠滅作業を終えて、星島被告はどんな心境だったのだろう。「もう見つからない」と安堵(あんど)したのか、それとも「いつか見つかるかもしれない」と焦燥感に駆られたのだろうか…。