(4)刺した後、腰と太ももを押さえながら「早く、早く…」
検察官による星島貴徳被告に対する質問が続く。法廷の両壁面に設置された大型モニターには、目隠しをされ、体を縛られた東城瑠理香さんがエアマットの上に寝かされている様子が映し出された。瑠理香さんが横たわるエアベッドの脇の椅子(いす)には星島被告が座っており、机に設置されたモニターをみている…。警察の実況見分で、星島被告が東城さんを殺害する直前の様子を再現したものだ。
検察官「モニターの写真の体勢から、あなたは立ち上がって、首を刺すと決め、首から血が出ると思い、クローゼットからタオルを持ってきた。その後、机に置いていた包丁を左手に持ち、寝ている東城さんの近くに行ったのですね」
星島被告「はい」
検察官「クローゼットに取りに行ったのはフェースタオルと言っていいのですね。血が出ると何がまずいのですか」
星島被告「部屋に血が飛び散って証拠が増えてしまう。それを避けるためです」
検察官「916号室から持ってきた包丁は、あなたの机の上に置いたのですね」
星島被告「はい」
検察官が証拠品の包丁を右手に持ち、高く持ち上げる。
検察官「昨日の(東城さんの)お姉さんの証言で出てきたのは、これと同じものですね」
星島被告「はい…」
検察官「はい、でいいですか」
星島被告「はい…」
検察官は、前日の東城さんの姉に対する証人尋問で、キッチンから無くなっていたとされる包丁を示した。
検察官「フェースタオルを取った後、東城さんに近づいていくとどんな様子でしたか」
星島被告「変わったところはありませんでした」
検察官「タオルは口に入れたままですね」
星島被告「はい」
検察官「息は」
星島被告「少しあがっていたと思います」
検察官「前触れなく刺すつもりだったんですね」
星島被告「はい」
検察官「なぜですか」
星島被告「叫ばれたり、抵抗されたり、そういったことが恐ろしかった。悟られる前に包丁で刺した」
検察官「刺すと決めてから、立ち上がるまでどのくらいの時間がありましたか」
星島被告「正確には分かりませんが、短かったと思います」
検察官「クローゼットに行って刺すまで1分もかかっていなかった、といっていいですか」
星島被告「はい」
検察官「フェースタオルはどこにかけたのですか」
星島被告「瑠理香さんのあごの左側のあたりから左側の首のあたりまで…。これから刺すところに血が飛び散るのを避けるためにかけました」
検察官「包丁は左手に持ったのですね」
星島被告「はい」
検察官「このような持ち方でいいのですね」
大型モニターに包丁を持った手の絵が映し出される。
検察官「(刺すときに)右手で頭を押さえたのは、頭と首を固定するためですか」
星島被告「そこまで考えていませんでした…。叫ばれないように…」
大型モニターに星島被告が東城さんを刺すときの実況見分の写真が映し出される。片方のひざをベッドに、もう片方を床に付け、東城さんの首に包丁を突きつけている。続いて、首の部分に包丁が刺さった絵が示された。遺族とみられる女性の傍聴人が嗚咽をもらした。もう、見ていられなかったのだろう。
検察官「この絵の位置で間違いないですか」
星島被告「はい」
検察官「刺す直前、包丁の先と首はどのくらい離れていましたか」
星島被告「5センチもなかったと思います」
検察官「刺すと、あなたはどうしましたか」
星島被告「体重をかけるように、首の奥へと刺していきました」
検察官「刺すと左手にどんな手応えがありましたか」
星島被告「硬い筋のようなものが…。左手に伝わってきました」
検察官「別の表現ではどんな感触?」
星島被告「ブチブチと切れる感触。首の筋、首の筋肉、血管が切り裂かれている感じがした」
殺害の瞬間を執拗に追及する検察官。殺害の残虐性を示す一方、遺族とみられる女性ははなをすすり上げ、肩を震わせていた。
検察官「包丁はすっと、どこまでも入っていったのですか」
星島被告「深く刺したと思います。首の筋肉で包丁が締め付けられるような感覚があり、そこで包丁が止まってしまって…」
検察官「どのくらいのところで止まった?」
星島被告「はっきりと覚えていませんが、取り調べで7、8センチといっていたので、それで間違いないと思います」
検察官「以前、ゼラチンを使った実験では8・3センチ刺したということでしたが、間違いないですか」
星島被告「はい」
検察官「刺した瞬間、東城さんはどうなりましたか」
星島被告「うめき声をあげたと思います」
検察官「どんな?」
検察官はここで語気を強めた。
星島被告「『ぐうっ』という低い声だったと思います…」
星島被告は、東城さんが暴れることを恐れ、腰と太もものあたりを押さえつけた…。
検察官「(東城さんを)押さえつけていたとき、あなたは何を考えていたのですか」
星島被告「早く死んでください。早く死んでくれるように…。それだけを考えていました」