(11)被告の“心理戦術”にはまった捜査員…遺体が入った段ボールは調べず
東城瑠理香さんが行方不明になったとの通報を受けた警視庁の捜査員が、痕跡をたどろうと足跡採取などの鑑識作業を進めるのを見た星島貴徳被告は、捜査かく乱をねらって近くのホームセンターに新しい靴を買いに、事件後初めて外出した。マンション出入口で見たのは、大量に導入された捜査員と群がるマスコミだった。
星島被告は、東城さん殺害後、遺体を切断。頭と胴体、手足など大きな部位は段ボールに入れ、冷蔵庫やクローゼット、ベッドの下に隠していた。
検察官「マスコミや捜査員がいたのを見て、あなたはどう思いましたか?」
星島被告「今の大きさのままでは(頭や手足、胴体を)到底、外に持ち出せないと考えました」
検察官「では、あなたはどうやって死体を運び出して捨てようと思ったのですか」
星島被告「もっと細かくすれば、トイレから捨てられるだろうと思いました」
ここで、星島被告がホームセンターで購入したという黒の革靴の写真が大型モニターに映し出される。
検察官「この靴以外に購入したものはありませんでしたか?」
星島被告「ゴミ袋やバスタオルを買ったかもしれません」
検察官「ほかにも洗浄剤を買ったのではありませんか?」
星島被告「買ったかもしれません」
星島被告は東城さんの遺体の一部を細かくしてトイレに流すなどしていた。
検察官「どんなものでしたか」
星島被告「パイプの詰まりをのぞくものです」
検察官「なぜ、買ったのですか」
星島被告「排水溝に(遺体の一部などが)残り、汚れて臭いを出すのではないかと考えました」
検察官「それ(臭いで)で犯行が発覚するのを恐れたのですね」
星島被告「そうだと思います」
証拠隠滅や捜査かく乱のための道具をホームセンターでそろえて帰宅した星島被告。自室に戻ろうとする9階のろう下で、東城さんの姉と遭遇したという。
検察官「9階に戻ってきたときに、だれかと会いましたね」
星島被告「イスに座って、うつむいている(東城さんの)お姉さんを見ました」
検察官「(お姉さんは)腕に何かつけていましたか」
星島被告「『立会人』という緑の腕章をつけていました」
検察官「3月に一度、916号室の扉の前で見かけた女性と思ったのですね」
星島被告「はい。この女性だと思いました。これがお姉さんで、状況から他に可能性がないと思いました」
検察官「(お姉さんは)どんな様子でしたか」
星島被告「うつろでした。周りが見えないというか、神経が衰弱しているというか。そんな感じでした」
検察官「あなたはお姉さんの様子を見て、どう思いましたか?」
星島被告「…。『もう殺してしまっている。帰らないことは分かっている』。そんな自分の不安が気づかれやしないかと怖くて逃げるように自分の部屋に戻りました」
妹の帰りを信じて疑わず、憔悴(しょうすい)しながらも警察の捜査に協力している東城さんの姉の姿も見てもなお、自分の事しか考えなかったという。
検察官「もちろん(お姉さんに)謝ることもしなかったのですね」
星島被告「はい」
検察官「謝ろうとも思っていませんでしたね」
星島被告「はい」
神隠し−。マンションの防犯カメラに東城さんの帰宅する様子が映し出されていながら、連れ出される様子が映っていなかったことから、そう呼ばれた事件。当初から東城さんはマンション内に監禁されている可能性があることが指摘されていた。警視庁は遺体が粉々に解体される前に見つけることはできなかったのか。検察官は核心部分の追及に入る。
検察官「(犯行翌日の昨年4月)19日と、翌20日の夕方に警察官が(星島被告宅に)聞き込みに来ましたね」
星島被告「はい」
捜査員は、聞き込みの際に、星島被告宅の室内を調べていた。
検察官「胴体が入った段ボールはベッドの下に置いていましたね。ベッドの下に他に段ボールはありましたか」
星島被告「はい」
検察官「警察官はどの段ボールを調べましたか」
星島被告「一番右側(手前)の段ボールをあけました」
検察官「そこには何が入っていましたか?」
星島被告「CDやゲーム機です」
検察官「そのときにあなたは警察官に何か言いましたか」
星島被告「『こちらの段ボールも見ますか』と(胴体が入っている)段ボールを示しました」
検察官「なぜ、そう言ったのですか」
星島被告「あえて言えば(捜査員が)気力をなくすだろうと裏をかきました」
検察官「その際、警察官はどんな反応でしたか」
星島被告「『いいえ結構です』といいました」
捜査員は星島被告の心理戦術にはまり、段ボールを開けることはなかったという。では、頭が入れられたクローゼットのパソコンの空き箱や折り曲げた手足を入れた冷蔵庫は調べなかったのか。
検察官「浴室は、どの程度調べたのですか」
星島被告「天井裏まで見たと思います」
検察官「クローゼットは開けましたか」
星島被告「開けたと思います」
検察官「(頭が入れられた)パソコンの空き箱は見ましたか」
星島被告「見ていませんでした」
結局は、マンション内での監禁を疑いながら、同じ階の住民である星島被告宅を捜査員は細部に至るまで調べることはなかった。
検察官「(捜査員に室内を調べられている際)あなたは、どういう心境だったのですか」
星島被告「冷静を装おうとしていました。協力し、何もあやしくないようにしていた」
捜査員が帰った後、星島被告は19日夜に事件の報道を初めて見たという。その報道は、23歳のOLが行方不明になり、自宅から血の跡が見つかったことが流されていた。
検察官「報道をみてどう思いましたか」
星島被告「危険だと。まだ血が残っていたのかと思いました」
検察官「自分が疑われるのは時間の問題だと思ったのですね」
星島被告「はい」
捜査員に何とか見つからなかった遺体をどう処分しようとしていたのか。
検察官「肉はトイレに流すとしても、骨はどうするつもりだったのですか」
星島被告「バラバラにして、どこかに捨てなければならないと思いました」
検察官「どんなことを考えましたか」
星島被告「かばんに入れて、どこかへ捨てようと考えました」
検察官「どんなかばんですか」
星島被告「少しの大きめのかばん…。通勤用の緑色のかばんで、少しずつ外へ持ち出していけば大丈夫だろうと思いました」
検察官「『大丈夫』というのは、警察に見つからないということですか」
星島被告「はい」
検察官「この日は何を解体したのですか」
星島被告「足と手を…。バラバラにしました」
検察官「なぜ、頭や胴体からやらなかったのですか」
星島被告「頭には抵抗があったし…」
検察官「それはなぜですか」
星島被告「顔があるし…。胴体は内臓があるから…」
検察官「一番、心理的抵抗の少ない手と足から解体することにしたのですね」
星島被告「はい」
ここで、裁判長が閉廷を告げた。審理が長時間に及んだためか、星島被告の顔は上気したように赤くなっている。刑務官に腰縄をつけられると、静かに法廷を後にした。
19日には東京地裁で午前10時から第3回公判が開かれ、検察側、弁護側双方による被告人質問が行われる予定だ。東城さんの遺体をより細かく損壊した経緯などを明らかにするとみられる。これまでの捜索で見つかったのは、遺体のごく一部で、残る部位の遺棄方法も焦点になる。