(2)月給50万円 自分の“将来”守るため殺害
警察官が星島貴徳被告の部屋をノックした後の様子について、検察官による被告人質問が続いている。検察官は、星島被告が東城瑠理香さんの殺害に至るまでの過程を詳細に聞き出していく。
検察官「(自室をノックした)警察官は何を知っていると思いましたか」
星島被告「(東城さんが住む)916号室で事件があったと…。ただ、私の部屋に瑠理香さんがいるとは分かっていないと思いました」
検察官「(部屋の)外に出てどうしましたか」
星島被告「『916号室で何かあったのですか』ととぼけたように聞きました」
検察官「何のために部屋から出たことにしたのですか」
星島被告「コンビニに行くふりをしました」
検察官「警察官は何か言いましたか」
星島被告「『この部屋の女性がいなくなりましたが、何か知りませんか』と聞かれました」
検察官「何と答えましたか」
星島被告「『何も知りません』とシラを切ったと思います」
検察官「警察官には何と言って部屋に戻ったのですか」
星島被告「『怖いです』とか『おっかないですね』と言って芝居をし…」
膝の上に手を置いてポツリポツリと証言する星島被告。語尾が聞き取れなかったのか、検察官が証言台のマイクに近づけ、いすを動かすように指摘する。
質問は警察官に無関係を装った星島被告が、室内に戻ってから考えたことについて移る。
検察官「(東城さんが住んでいた)916号室のカギは閉めましたか」
星島被告「いいえ」
検察官「(犯行日が金曜日だったため)月曜日まで犯行が発覚しないと考えたからですか」
星島被告「はい」
検察官「916号室のカギが開いていると、警察官はどう考えると思いましたか」
星島被告「そこまで考えませんでした。玄関のカギを開けた時に押し入られたと考えるのが普通と…」
検察官「警察官は誰を怪しむと思いましたか」
星島被告「すぐそばの住人です。一番近い私が怪しまれるのが当然と思いました」
検察官「警察官はどうしてくると思いましたか」
星島被告「私の部屋へ捜査してくるだろうと」
検察官「部屋の中に入られると、どうなるのですか」
星島被告「瑠理香さんが見つかり、逮捕されると思いました」
検察官「逮捕されるとどうなると思いましたか」
星島被告「仕事も住む場所も将来も全部なくなると…」
自分の“将来”のために何の関係もない瑠理香さんの将来を奪った星島被告。検察官は星島被告が「失う」と思ったものは何だったのか、詳しく聞き出していく。
検察官「逮捕されると何を失うのですか」
星島被告「私の将来だと思います」
検察官「生活は?」
星島被告「それもです」
検察官「あなたの将来とは?」
星島被告「住む場所と仕事と…(数秒間だまりこむ)それなりに贅沢に暮らしている生活だと思います」
検察官「給料は当時、どれくらいもらっていましたか」
星島被告「手取りで50万円です」
検察官「貯金はありましたか」
星島被告「いいえ」
検察官「50万円をすべて使っていたのですか」
星島被告「そうだと思います」
派遣社員をしていた星島被告だが、会社では有能だったのか、高い給料をもらっていた。
検察官「失うのは体面もあったのではないですか」
星島被告「考えたと思います。今思えば、体面と言っても地位も名誉もありませんでした」
検察官「当時はそう思ったのですか」
星島被告「そんなもの(地位や名誉)があると思っていたのだと思います」
検察官「タクシーで通勤していましたが、なぜですか」
星島被告「電車に乗るのが嫌だったからです」
検察官「なぜですか」
星島被告「マナーの悪い人間がいたり、遅刻の可能性もあり、不愉快で一杯でした」
検察官「他人と一緒にいるのが不快なのですか」
星島被告「はい」
検察官「タクシーを使って出勤することは、あなたに何を与えましたか」
星島被告「優越感だと思います」
検察官「ステータスを感じたということですか」
星島被告「人には自慢できることだと思います。(逮捕されることで)そういうのもなくなると思いました」
検察官「逮捕されると人生はどうなると思いましたか」
星島被告「生きる意味がなくなると思いました。今思えば、すでに生きる意味はなくて生き甲斐が欲しくて瑠理香さん、女性を襲ったというのが確かだと思います」
星島被告はこれまでにない大きな声で吐き捨てるように語った。検察官の質問に星島被告はさらに語気を強めていく。
検察官「生活を失うと生きる意味がなくなるのですか」
星島被告「はい。自分が女性を拉致し乱暴目的で連れ去って…そんな前科をとても恐れていました」
検察官「前科を恐れていたのですか」
星島被告「後ろ指を指される人生が嫌でした」
検察官は質問を少し変え、星島被告が逮捕されずに東城さんを解放するという選択肢を考えていなかったことについて質問していく。
検察官「逮捕されずにすむ方法は考えませんでしたか」
星島被告「考えました」
検察官「例えば?」
星島被告「瑠理香さんと付き合っていることにして、痴話げんかで殴ったということにしようと考えました。ただ、瑠理香さんが口裏を合わせなければならず、とてもできないと思いました」
検察官「なぜ口裏を合わせてくれないと考えたのですか」
星島被告「見ず知らずの男に殴られて、その男の言うことを聞くと思えませんでした」
検察官「東城さんに許してくれるよう頼もうとは思いましたか」
星島被告「思いませんでした。許してくれる訳がないと思いました」
検察官「他に逮捕されずに済む方法は考えましたか」
星島被告「考えませんでした」
検察官「東城さんを生きたまま隠すことは?」
星島被告「無理です」
検察官「(部屋の)スペース的にですか」
星島被告「空間もそうですが、瑠理香さんが静かにしている保証は何もないからです」
検察官「その結果、どうしようと思いましたか」
星島被告「痕跡を消すため、警察に見つからないようバラバラにして小さくして隠すことを考えました。そのためには、瑠理香さんを殺さなければと思い、確実に殺すために失血死させようと思いました」
贅沢な生活を守るために瑠理香さんの殺害を決意した星島被告。検察官はこの後、具体的な殺害方法について質問をしていく。