第4回公判(2010.10.22)
(7)「血の感触思いだすか」「動かなくなってどう思ったか」裁判員から繰り出される質問に被告は…
東京都港区で昨年8月、耳かき店店員の江尻美保さん=当時(21)=と祖母の鈴木芳江さん=同(78)=を殺害したとして、殺人などの罪に問われている元会社員、林貢二被告(42)に、男性弁護人が質問していく。検察側と主張が対立している点を確認しているようだ。
弁護人「今年、あなたの調書を差し入れしましたね。調書の内容は(供述した内容と)合っていましたか」
被告「間違ってはいないと思います。ただ、その前後の検事さんとの会話が書いてないので、少し意味が違ってくる気がします」
弁護人「あなたは(江尻さんが勤務していた)耳かき店をネットで見つけた際、マッサージ店や性風俗店を検索していたのですか」
被告「あれは警察官が私に言ったんです」
ここで弁護人の質問が終了し、代わって男性検察官が追加質問をする。
検察官「最初に(江尻さんの家の)ドアを開けたとき、あなたは入るのを躊躇(ちゅうちょ)していたというが、施錠を確認する目的だったんじゃないですか」
被告「違います」
検察官の質問が終了すると、若園敦雄裁判長が被害者参加人の代理人に、林被告への質問を許可した。検察官の後ろに座っていた女性が立ち上がり、「最初に申し上げておきますが、私は江尻美保さんのお父さまに代わって質問しますので、できるだけ正直に答えてください」と前置きした。
代理人「何としてもお聞きしたかったのは、あなたはなぜ美保さんを殺害したのですか」
被告「今はちょっと明確には分かりません」
代理人「殺してやりたいほどの怒りは、どこから来たのですか」
林被告が無言のままでいると、代理人は「お答えできないということですか」と厳しい口調でたたみかけた。
被告「それは…。具体的には分かりませんが…。それは、私が身勝手な人間だったのだと思います」
代理人「あなたのいう恋愛感情だったかどうかは別として、あなたの思いに美保さんが答えてくれなかったから、殺してやりたいほどの怒りが募ったのではないですか」
被告「分かりません」
代理人「なぜ、殺害する場所として自宅を選んだのですか」
被告「選んだわけではありません」
代理人「彼女が逃げられない場所で、確実だと思ったからではないですか」
被告「それは違います」
代理人「このとき、美保さんしかいないと思っていたのですか」
被告「そういう想定はしていません」
代理人「あなたは毎日、遺族に手紙を書いているということで、その一部は証拠として出されています。今年10月10日に書いたという手紙の4行目についてですが…」
代理人が文面を読み上げると、法廷内の大型モニターに、手紙の一部が映し出された。縦書きできちょうめんな字が並んでいる。
代理人「『許されるなら、一生懸命に働いて、少しでも被害者のご家族にお役に立ちたいと考えております』とあります。一生懸命に働いて、というのは、社会復帰して外で働くということですか」
被告「そこまでは考えていません。それもお役に立てる一つと考えています」
代理人「外で働くということなのですか」
被告「どこであってもということです」
代理人「この裁判で、遺族の処罰感情が非常に厳しいと知った上で、今でも、一生懸命働いて少しでもお役に立ちたい、と考えているのですか」
被告「…」
再び黙り込んだ林被告に代理人が「何とも答えられないということですか」と尋ねると、林被告は「お役に立ちたいと思っています」と話した。
代理人「また、手紙には『私の思い上がりかもしれませんが、私にできることは懸命に働くことだと思います』ともありますが、その気持ちに変わりはありませんか」
被告「いろいろ書いてあると思いますが…」
代理人「変わりありませんか」
被告「はい」
女性代理人の質問が終わると、若園裁判長が「裁判員の方、何かあればどうぞ」と質問を促した。初めに手を挙げたのは、裁判員番号4番の女性だ。
裁判員「美保さんと信頼関係ができているということでしたが、美保さんには本名を明かされなかったということでしょうか」
被告「そうです」
裁判長「林という名字だということは言っていないということですか」
被告「そういう会話にならなかったので」
林被告は江尻さんが勤務する耳かき店を利用する際は、「吉川」という偽名を使っていた。
裁判員「2階にはどの段階でハンマーを持っていったのですか」
被告「分かりません」
続いて、裁判員番号1番の女性が質問した。声がかすかに震えている。
裁判員「犯行後に手を洗ったということでしたが、その血やナイフの感触を今も思いだすことはありますか」
被告「はい」
裁判員番号3番の男性が続く。
裁判員「動かなくなった美保さんを見て、どう思いましたか」
被告「そのときはまだ、頭が混乱していました」
林被告が短く返答すると、若園裁判長が「答えはそれぐらい?」と確認。その後、裁判員番号6番の男性が質問した。やや厳しい口調だ。
裁判員「人間に急所があることをご存じでしたか」
被告「どこかは知りませんが…」
裁判員「1カ所も知らない?」
被告「心臓とかですか?」
裁判員「他は知らない?」
被告「…(聞き取れず)」
この後も、男性裁判員は「人間は血がなくなると死んでしまうことは?」「首に血管があることは?」「切れたらどうなってしまうかは?」と矢継ぎ早に質問を続けたが、林被告は小さい声で、返答が聞き取れない。最後に、裁判員が「首は急所ではないのか?」と尋ねると、林被告は「ないとはいっていません」と答えた。