第4回公判(2010.10.22)
(14)「親戚を代表して極刑を求めます」 遺族の悲痛な訴えに裁判員ら涙
東京・秋葉原の耳かき店店員、江尻美保さん=当時(21)=と祖母の鈴木芳江さん=同(78)=を殺害したとして、殺人などの罪に問われた元会社員、林貢二被告(42)の裁判員裁判。江尻さんの伯父にあたる鈴木さんの息子の意見陳述が続く。
遺族「美保は思いやりのある優しい女性でした。かわいそうで言葉もありません」
「犯人は計画性があり、残虐で情状酌量の余地はありません。絶対に許せない。断じて許せない」
伯父は言葉を詰まらせながら、用意した文章を読み上げていく。林被告は下を向いたまま、遺族の方を見ようとしない。
遺族「とてつもないショックです。辛くてたまりません」
「血の跡が残された家に行きました。家のそこかしこに血がついていて、血だらけでした。母が50年以上暮らしてきた鈴木家の中心の家でしたが、住むことができなくなりました」
傍聴席の遺族とみられる女性がハンカチで顔を押さえ、すすり泣いている。
遺族「母は毅然(きぜん)とした態度で家族を守ろうとしたのでしょう。なぜ母が殺されなければならなかったのか」
さらに、伯父は公判を傍聴した思いを語る。右から3番目の女性裁判員はハンカチで目頭を押さえた。
遺族「精神科医との議論を聞いていましたが、鈴木家の2階に上がる階段は非常に急なんです。母の殺害後、震えた足で上がることなどできません」
「犯人は手を洗ったりして私は冷静沈着だったと思っています。死人に口なしなのですか。犯人にしか知り得ないことですが、私はそう(冷静沈着だったと)思います」
江尻さんの伯父は声を高ぶらせた。林被告はうつむいたまま、身動きをしない。
遺族「殺された2人はもっと生きたいと思っていたでしょう。母は孫や友人のことを思いながら、天国に旅立っていったのでしょう。母は戻らず、言い残したいことはたくさんあります。親の死に目に会えなかったことは、無念でなりません。不幸のどん底に突き落とされました」
伯父はさらに、林被告の被告人質問での証言について「後悔はしていても反省していない」と批判し、言葉を続けた。
遺族「美保の悪口しかいっていない。死人に口なしで、自分の都合のいいことしか言っていない。法廷で叫びたくなりました。ふざけるな」
怒りに震えた大きな声が法廷に響いた。
遺族「美保は悪口を言わない優しい子です。めいの名誉のために、それだけは言いたい」
さらに、伯父は公判を傍聴しても林被告が何のために殺したのか分からなかったと強調。林被告が遺族にあてた手紙で「許されるなら一生懸命働き、残された家族の役に立ちたい」と記述したことについての心境を語った。
遺族「犯人に生きていてもらいたくない。犯人が働いていても、遺族の役に立つことはない。母もめいも生きていない。親戚(しんせき)を代表して、極刑を求めます。1年たっても遺族の傷は癒えることはありません。犯人に極刑を求めます」
伯父ははっきりとした口調で述べた後、裁判員に向かって訴えた。
遺族「裁判員の皆さん、お願いがあります。事件のありのままの姿をぜひ見ていただきたい。生まれ育った家が血に染まりました。血に染まった家を片づけました」
「母とめいの現場の写真は白黒で映し出されましたが、裁判員の方にはカラーの写真をぜひ見ていただきたい。母とめいの無念の顔を、ぜひ見てください。辛いこととは思いますが、ありのままをすべて見て、その上で判断してほしい。遺族の思いです」
意見陳述を終えた伯父に、若園敦雄裁判長と男女6人の裁判員は深く頭を下げた。伯父の悲痛な訴えに裁判員らも涙を見せる。左端の女性裁判員はハンカチで涙をふき、その隣の女性裁判員も目をうるませた。
続いて、鈴木さんの妹の意見陳述になった。黒服の女性が背中を丸めて証言台の前に立ち、席についた。若園裁判長が名前を確認した後、ゆっくりとした声で話し始めた。
遺族「あの恐ろしい日から1年2カ月。事件を知ったときはその場で崩れ落ち、立ち上がることができませんでした」
鈴木さんの妹は、事件後も江尻さんの母親が家から出られなくなったことなど、癒えない遺族の心の傷を切々と訴える。
遺族「身勝手で残忍な方法で、かけがえのない2人の命が奪われました。どんなに悲しみ苦しんだか、犯人は分かっているのですか。明るく笑顔の芳江姉ちゃん、美保ちゃんを返してほしい」
林被告はずっとうつむいたままだ。
遺族「芳江姉ちゃんは決して恨まれない、人間愛に満ちた姉です。どうして殺されなければならないのか。夢の中に出てきた姉が『悔しい、悔しい』と訴えています。78年間一生懸命生きてきた姉の一生を、勝手に終わらせた。命を返してください。美保ちゃんの命を返してください」
鈴木さんの妹はすすり泣きながら訴える。
遺族「心が張り裂けそうです。自己中心的で、身勝手で残忍な行動です。人間のすることではありません」
「犯人とさえ出会わなかったら夢に向かって歩んでいけたのに、不憫(ふびん)でかわいそう。自分勝手な犯人に人間社会から絶たれ、動く姿を見ることはできません。犯人は自分の足で歩き、自分の声で話しています」
鈴木さんの妹は涙声で訴え続ける。右から2番目の女性裁判員は唇をかんだ。妹は法廷で林被告を見て、「むごさや恐ろしさ頭の中が真っ白になった」などと声を詰まらせながら心境を語った。
さらに、林被告が被告人質問で江尻さんへの恋愛感情を否定したことに、鈴木さんの妹は「好きでもない何でもない感情の犠牲では、遺族はとことんやりきれない」と訴え、涙声で言葉を続けた。
遺族「姉や美保ちゃんがこんな男に殺されるなんて悔しい。本当に悔しい。姉さんに会いたい。美保ちゃんに会いたい」
「ごめんなさい。この先、私、読めません」
鈴木さんの妹は泣き崩れた。すかさず女性検察官が近づき、「代読します」と陳述書を手に取り、朗読を始めた。
検察官(代読)「姉さんに会いたい。美保ちゃんに会いたい。どんな姿でもいい。生きて動いている姿に会わせてください。一言でいい、お別れを言いたい」
淡々と読み上げる検察官。法廷には鈴木さんの妹の泣き声が響く。右端の男性裁判員が眼鏡を外し、ハンカチで涙をぬぐった。
検察官(代読)「裁判員の皆さん。大切な家族を失いました。正しく裁いていただきたいです」
「姉の墓参りをして、死刑の判決でいい報告を待っていてねと誓ってきました。いまは姉の遺品のバラのブローチをつけています。姉も私たちと一緒に裁判を見ています」
「2人が返ってくるわけではありませんが、肉親を残忍に殺した犯人は死刑で償ってほしい。被害者の遺族として死刑を求めます。よろしくお願いします」
鈴木さんの妹は女性検察官につき添われ、証言台から傍聴席に戻った。裁判員らは目をうるませている。ここで若園裁判長が残り時間がなくなったため、閉廷を告げた。次回公判は25日午前10時から開かれる。