初公判(2010.9.3)

 

(8)六本木に響くサイレン…遺棄致死罪立件へ本格シミュレーション

押尾被告

 合成麻薬MDMAを飲んで容体が急変した飲食店従業員、田中香織さん=当時(30)=を放置し死亡させたとして、保護責任者遺棄致死など4つの罪に問われた元俳優、押尾学被告(32)の裁判員裁判初公判は検察側の証拠調べが続いている。

 検察官は引き続き、119番通報をした場合に、現場となった六本木ヒルズから傷病者を搬出するのに必要な時間を測定するために実施したシミュレーションについて説明する。先ほどは六本木ヒルズBC棟の車寄せに救急車をつけた場合に9分53秒かかるとしていたが、続いて敷地内の別の車寄せに止めたケースについて読み上げる。

検察官「六本木ヒルズの職員に誘導してもらいながら、救急隊員には実際と同じように行動してもらい、ストップウオッチで計測しました。その結果、到着から搬出までは10分19秒かかりました」

 続いて、心肺停止の傷病者に対する救急車内の処置に関するシミュレーションについて説明する。大型モニターには救急車内で活動する救急隊員たちの写真が映し出される。

検察官「上半身の毛布をめくりながら、呼びかけています。胸を親指で圧迫して刺激を与え、意識があるか確認します」

「次に気道確保を行い、脈拍と呼吸を確認します。心肺停止が確認された場合には心臓マッサージを行い、人工呼吸を行います」

 続いて検察側は119番通報が行われた場合、近くの麻布消防署や赤坂消防署から出動した救急隊が、六本木ヒルズの傷病者を最寄りの病院まで何分で搬送できるかを検証していく。警視庁や東京地検は保護責任者遺棄致死罪での立件に向け、実際にサイレンを鳴らした救急搬送のシミュレーションを行っていた。

検察官「警察車両を使って、緊急走行しました。まずは麻布消防署の場合ですが、午後5時52分に出動して、1分22秒で六本木ヒルズに到着します。走行距離は500メートルです。(傷病者を救急車に搬入して)午後6時8分に出発して、午後6時12分に病院に到着します。所要時間は4分5秒で、約2キロの走行になります」

 検察側は赤坂消防署から出発した場合については午後6時31分ごろに病院に到着するというシミュレーション結果も発表した。搬送時間は119番通報した場合の救命可能性や、保護責任者遺棄致死罪成立の可否を検討する上で、重要な判断材料となる。裁判員たちは手元のモニターを真剣な表情で見つめる。

 検察側は続いて、麻布消防署の救急隊員の供述調書の読み上げに入る。救急隊員は救急搬送の一般的な手順などについて説明している。

検察官「119番通報はまず、指令室に回されます。指令室は近い救急隊を現場に向かわせます。指令を受けてから出発まで、1分もかかりません。1人は救急救命士が搭乗することになっていて、通報者に対しては電話で人工呼吸などの対応について指示することもあります」

「(傷病者に対しては)意識を確認するために名前を呼びかけ、『もしもし』と3回呼びかけます。胸骨を押して刺激を与えて反応しなければ、気道を確保して脈拍や呼吸を確認します」

「薬物中毒者の傷病者の場合には指令室に電話して報告します。指令室が(適切な治療が可能な)病院を探してくれます」

「心肺停止の場合にはAED(自動体外式除細動器)を使います。モニターで心停止を確認した上で、除細動(電気的なショックを与える)を行います」

「病院では医師が救急病棟の入り口で待っているので、医師に容体などを報告します。これが一般的な救急隊の活動です」

 検察側はさらに救急隊員2人の供述を読み上げる。いずれも同様に救急活動に関する説明を述べている内容だった。田中さんの異変直後、自ら119番通報をすることなく部屋を立ち去った押尾被告は表情を変えることなく、検察官の読み上げを聞いていた。

⇒(9)「白目むいたりけいれん…呼吸できず死に至る」 専門家が違法薬物の実害指摘