初公判(2010.9.3)
(4)「違法薬物のセックスこれまでも」 あえてクスリの確認必要ないと弁護人
違法薬物の入手方法をめぐって弁護側の冒頭陳述が続く。元俳優、押尾学被告(32)は時折、裁判員の表情をうかがう様子を見せ、冒頭陳述の概要が映し出されたモニターに目を向けている。
弁護人「(押尾被告が)カプセルを2個所持していたことは認めるが、泉田氏から受け取ったのは粉末だった。現物は残っておらず、(飲食店従業員の)田中(香織)さんの死後に処分を依頼している」
泉田氏とは、押尾被告にMDMAを譲渡したとして麻薬取締法違反罪に問われ、懲役1年の実刑判決が確定した友人の泉田勇介受刑者のことだ。
弁護人「現物が残っていないにもかかわらず、(麻薬取締法違反罪の)譲渡で起訴するのは本来なら大変難しいと言わざるを得ない。裁判員の方々は泉田氏と押尾さんの双方の言い分をきちんと判断していただきたいと思います」
向かって左から3番目の席の男性裁判員が眉間(みけん)にしわを寄せながら弁護人の説明を聞いている。
弁護人「押尾さんは泉田氏に4月20日に薬物の入手を依頼し、8月2日には泉田氏に(粉末薬を入れる)カプセルの購入を依頼した。もし錠剤なら、通常はカプセルの購入を依頼することはない。泉田氏は昨年12月に逮捕、勾留(こうりゅう)されています。泉田氏は捜査機関の厳しい追及を受け、事実を明かそうとしていない可能性があります。つまり追及から逃れるために虚偽の証言をしている可能性があるのです」
向かって右から3番目の女性裁判員が考え込むようにしてモニターを見つめている。
弁護人「錠剤は田中さん自身が持ってきたものであり、押尾さんは田中さんに飲むように強制したことはありません。これまでに押尾さんと田中さんのメールのやり取りが問題となっています。メールの内容だけが一人歩きし、田中さんの薬物の入手可能性については触れられていません。田中さんと押尾さんは仲のいい友達でした。それまでに体の関係があったこともあり、早く会いたい、抱き合いたいと思っていました。アメリカ暮らしが長かった押尾さんの愛情表現として、『来たらすぐいる?』とメールをしたのです」
男性検察官は資料を読みながら弁護人に対し、鋭い視線を向けている。
弁護人「田中さんと押尾さんは違法薬物でセックスすることはこれまでにもありました。クスリを使ってセックスをするためにあえて確認のメールを送る必要などないのです。そして田中さんは押尾さんに電話で新しいクスリがあるから一緒にどうかと尋ねることもありました」
田中さんが違法薬物を入手できる状況にあったと説明する弁護人。
弁護人「田中さんは暴力団関係者の組長と親密な付き合いがあったことも明らかとなっています。田中さんの自宅からは暴力団関係者の名刺がたくさん発見され、田中さんの背中には入れ墨がありました。田中さんが働いていたクラブのママの調書には、田中さんが最近薬物を使用していたとも書かれてあります」
ここで男性検察官が突然立ち上がり、弁護人に対し、証拠の引用を冒頭陳述で行うことは違法であると厳しい口調で指摘する。30秒ほど陳述が中断した。
弁護人「田中さんがMDMAを持ってきた可能性は十分にあると考えられます。8月2日は田中さんが持ってきたクスリを使っており、押尾さんのクスリは使っていません。泉田氏が押尾さんに譲渡したMDMAなのかどうなのか。泉田氏への反対尋問や被告人質問で真実を明らかにしていきたいと考えております」
陳述内容が違法薬物の入手方法から、保護責任者遺棄致死罪関連へと移る。
弁護人「保護責任者遺棄致死罪とは本来どういうものか。ベランダに子供を放置して死亡させた痛ましい事件。覚醒(かくせい)剤中毒の女子中学生が放置されて死亡した例などがあります。罪に問うためには、押尾さんが保護責任者でないといけません。しかし押尾さんと田中さんは親子関係でも何でもないのです。クスリは田中さんが自ら持参し、自ら飲んだもの。押尾さんは保護責任者には該当せず、死亡する原因となる行為は何もしていません」
向かって左から3番目の男性裁判員が押尾被告の表情を確認し、額にペンを当てながらモニターに目を移す。
弁護人「罪状認否の通りですが、押尾さんは懸命に心臓マッサージをしました。押尾さんは田中さんを見捨てて逃げずに救命しようとしたのです。押尾さんと田中さんは親しい友達であり、体の関係にもありました。田中さんを見捨てたというマスコミが作り上げたイメージにとらわれず、真剣に考えてください。検察官は死亡推定時刻を(8月2日の)午後6時47分から午後6時53分ごろとしていますが、午後6時ごろに死亡している可能性もあると考えられます」
再び立ち上がる男性検察官。証拠の引用を控えるよう弁護人に再度忠告する。山口裕之裁判長も男性検察官の主張を認めたようだ。
弁護人「押尾さんは幼少からアメリカ暮らしが長く、小学生のころから心臓マッサージの心得がありました。力の入れ方は適切であり、懸命に蘇生(そせい)させようとしました。決して田中さんの救命を放棄したり、遺棄したりしていないのは明らかです」